相模原市「やまゆり園障害者殺傷事件」の発生から5年が過ぎ、ようやく事件に関する本を読もうという気になった

神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」に元職員の男が押し入り、障害者19人が殺害し27人が負傷させた事件の発生から5年と2カ月と数日が経過しました。

 もうそんなに経ったのか。

 障害児の親としては人ごとではない、極めて恐ろしい事件でしたが、あまりにも衝撃が強かっため、事件についてできる限り考えないように過ごしてきました。

 新聞は斜め読みで、テレビは意識的に観ないようにしていました。もともとテレビを観る習慣が薄かったのですが、この事件を機にほとんど観なくなりました。

 それでも、事件に関するニュースは断片的に目と耳に飛び込んできます。

 事件発生時、息子は息子は4歳7カ月で、言葉はまだ話せず「この子は一生しゃべれないのではないか」と覚悟を始めた頃です。

 トイレトレーニングを始めていましたが失敗ばかりで、身辺自立の見通しすら立っていませんでした。

 当時のネット掲示板には、重度障害者を殺害したあの男の動機に賛同する書き込みが見られました。

 あの男の理屈を当てはめると、わが息子は「殺される対象」だったのです。

 事件は2020年3月16日に横浜地裁の1審で死刑判決が言い渡され、弁護人が行った控訴を本人が取り下げたため、死刑が確定しています。

 この頃も大きくマスコミに報道され、ことし7月には事件発生から5年の節目だったことから、遺族の声などを取り上げたニュースを目にしました。

 しかし、今や全く話題にはなっていません。この男の死刑執行が行われた時にまた大きなニュースになって、その翌日以降から多くの人々の記憶から少しずつ消え去っていくことでしょう。

 そんな中、ようやく事件に関する本を読もうという気持ちになりました。


 この事件の報道に触れるのをこれまで頑なに避け続けてきたのには、二つの理由がありました。

①安直で情緒的な「怒りと悲しみポルノ」としてこの事件が消費されていくのが耐えられなかった
②「世間の注目を集めたい」と思って凶行に走ったであろうこの男に注目するのが嫌だった

 「感動ポルノ」という言葉があります。

 「かわいそう」で「純真」な障害者が「恵まれない境遇」に「負けない」で「ひたむきに、まっすぐ努力し続ける」さまが映像や文章で商品化され、その商品が多くの人々の感動を呼び、勇気づけられたり「自分も頑張ろう」という気になったりーというやつです。

 これほど衝撃的な凶悪事件が発生した直後には、ワイドショーに出てくる芸能人や文化人が情緒たっぷりの紋切り型コメントをし、活字メディアにも小器用にまとめ上げられた紋切り型コラムや紋切り型評論の類があふれます。

 これを「怒りと悲しみポルノ」と呼んでみました。

 事件発生直後はテレビのワイドショーも大々的に取り上げ、視聴者は「怒りの悲しみポルノ」にどっぷりとつかり、いずれコンテンツとして賞味期限が切れ、忘れ去られていきます。

 障害のあるわが子と日々向き合っている「当事者の親」としては、この事件に向き合うのは相当なスタミナと精神力がいると思い、事件の関連の報道を意図的に避けてきました。

 事件発生5年の節目を過ぎ、メディアの露出がほぼなくなった今こそ、事件に向き合う時だと考えました。

 もう一つ。事件直後に断片的に目と耳に入った報道から、この男は、今でいうところの「迷惑系ユーチューバー」や炎上系のネット有名人みたいな「注目されたがり」なんだと推測していました。

 「この事件に興味を抱いたら、この男の思うツボなのではないか」と頑なに思っていました。

 事件を起こした死刑囚の氏名を書かずに「この男」呼ばわりを続けるのは、そのためです。


 先週から、突然スイッチが入ったようにAmazonで本を買い集め、読み続けています。いま手元にあるのはこの7冊です。

・相模原に現れた世界の憂鬱な断面(森達也著、講談社現代新書)
・この国の不寛容の果てに〜相模原事件と私たちの時代(雨宮処凛編著、大月書店)
・相模原事件裁判傍聴記〜「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ(雨宮処凛著、太田出版)
・開けられたパンドラの箱〜やまゆり園障害者殺傷事件(月刊「創」編集部編、創出版)
・パンドラの箱は閉じられたのか〜相模原障害者殺傷事件は終わっていない(月刊「創」編集部編、創出版)
・やまゆり園事件(神奈川新聞取材班、幻冬社)
・季刊 福祉労働153「相模原・障害者施設殺傷事件〜何が問われているのか」(現代書館)

 必要性を感じたら、また買い足すと思います。

 ここまで書いてきたことに関連がある部分を引用します(太字は筆者)。

 「事件発生時はテレビも含めてすべてのマスコミが過熱的に取材していました。でも急激に熱が下がって取材が減ってきた。この傾向は特に民放に顕著です。知り合いの記者によれば、報道しても視聴率に結びつかないから放送してもらえない、だから取材しない、ということらしいのです」

「相模原に現れた世界の憂鬱な断面」(森達也著、講談社現代新書)P254より引用

 著者の森達也さんがインタビューした神奈川新聞記者の証言です。

 まあ、そんなところですよね。「怒りと悲しみポルノ」としての商品価値がなくなった、と判断してのことなのでしょう。

 今思うと、ぼくはこの手のメディアがいなくなるのを待っていたのかもしれません。

 事件を起こすとトランプ(大統領)から反応があると思ったかについて問われると、言った。
 「あってもおかしくないと思いました。おかげでプーチン大統領から反応を頂けて光栄です」
 どんな反応? と問われて「追悼のお言葉を頂きました」「重大な問題であると伝わったと思います」

「相模原事件裁判傍聴記〜『役に立ちたい』と『障害者ヘイト』のあいだ」(雨宮処凛著、太田出版)p97~98より引用

  これは横浜地裁第8回公判(2020年1月24日)で行われた、初の被告人質問でのやり取りです。

 「目立ちたがり」というぼくの想像は当たっていましたが、ここまで軽くて浅い人間だということは想像をはるかに超えていました。拘置所で接見に応じるこの男の様子が他の本にも紹介されていますが、毎回とてもうれしそうです。

 今まで注目しなかったのは正解だった。やはり「そういう」人間だった。


 ここに挙げた本はいずれも「学び」「発見」の要素が多すぎて、情報や思いを整理していくのは大変な作業になりそうです。

 全てを一通り読み終えた段階で、重度自閉症・中度知的障害がある子を育てる親として思ったことを、膨大な情報と自らの思考を整理するため、ここで断続的に書いていくつもりです。

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相模原市「やまゆり園障害者殺傷事件」の発生から5年が過ぎ、ようやく事件に関する本を読もうという気になった” に対して6件のコメントがあります。

  1. 内藤織恵 より:

    今月24日(日)、14時から、総合福祉会館で勉強会があります。ゲストは尾野さん一家です。被害者家族で唯一の顔出しをされている方です。犯人から何度も刺された息子さんも一緒です。彼は24時間ヘルパーが付いて、一人暮らしを頑張っている所です。宜しかったらご参加ください。

  2. かにママの夫 より:

    お久しぶりです。ご連絡ありがとうございます。
    ぜひ参加したいです。事前申し込みは必要でしょうか?

  3. 内藤織恵 より:

    予約は不要です。詳しいことがわかりましたら、またご連絡しますね。

  4. かにママの夫 より:

    ありがとうございます。

  5. 内藤織恵 より:

    勉強会ですが、ヘルパーさんの都合で、息子さんは来れなくなりました。
    それでもかまいませんか?
    24日(日)14時から総合福祉会館の視聴覚室にてです。宜しかったらご参加下さい。

  6. かにママの夫 より:

    ご連絡ありがとうございます。
    参加させていただきます。

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