ガムをかむ能力は生きていく上で必要なのか?

先日、出勤前に息子を学校に迎えに行った時、ちょうどその日は学年のクリスマス会だったそうで、担任の先生が「クリスマス会の時に●●(息子の名前)さんはガムを食べたがっていたのですが、『ガムを食べると、他のお菓子を食べる時間がなくなっちゃうよ』と声を掛けて、スナック菓子の方に誘導しました」とおっしゃっていました。

 息子は近所の小学校の特別支援学級に通っています。先生の話から「丁寧に見ていただいてありがたいなぁ」という感謝の念を抱いたわけですが、それ以上に「ガムを食べたことがないはずなのに、どうして興味を示したのだろう」という部分が引っ掛かりました。

 妻に聞いて謎が解けました。ガムの噛み方について、夏ごろからABA(応用行動分析)の療育で教えているのだそうです。で、妻は「自分からガムを食べようとしたんだね。教えたかいがあった」と喜んでいました。

100円ショップで買ったマルカワガム
妻がABA用に100円ショップで買っているガム。懐かしのマルカワガム!子どもの頃、駄菓子屋でよく買いました。まさかこんなところで再会できるとは…=2019年12月、新潟県新発田市

 妻がABAの手法を使って「つみきの会」テキストにないことを必要に応じて教えているのは以前から知っていました。2〜3歳の頃はそれで「帽子をかぶる」「手袋をはめる」ができるようになりました。

 しかし、です。帽子や手袋を使えるようになることは日常生活を送る上で重要だと分かるのですが、なぜ何カ月もかけてガムの噛み方を教えているの? ガムなんか噛めなくても生きていく上で支障はないんじゃないかな?

 妻にそう尋ねると、歯の磨き残しを調べる「カラーテスター」を学校で使う際に備えた予行演習なのだとのことでした。「口に入れて最後は吐き出す」という動作が一緒なので、役立つのではないかと考えたそうです。

 なるほど、何でも応用できるものなのですね。「余計な/ものなど/ないよね〜」という、バブル時代に流行った曲の歌詞が頭に浮かびました。

 息子は口内の動きが特に器用でないようでして、8歳になった今でも母音優先の聞き取りにくい発音で話します。大声で自信満々ではあるのですが。

 健常児であれば教えなくても「見よう見まね」でいつの間にかできるようになることが、息子の場合はかなり時間をかけて根気強く教えないとできるようになりません。
 そのためのABA療育ではありますが、発語の際の口の形や舌の位置、歯の使い方などを習得するのは特に難しいようにみえます。

 そういえば、自閉症特有の「こだわり」に基づく偏食は成長に伴ってなくなったため、この一件があるまで意識していませんでしたが、口内の動きの難しさゆえにクリアできない食べ物はまだ残っていました。
 その代表例がガムとアメです。

 ガムは、噛んで味を楽しみ、味がなくなったら吐き出す。アメは噛まずに口内で転がして味を楽しみ、少しづつ小さくなっていく。考えてみれば、両方とも妙な食べ物です。
 しかも、多くの人々が無意識でこなしているこれら一連の動作を意識下に戻して細分化して言語化して相手に伝えるって、すごく難しい作業だと思います。

 妻によると、ガムを噛む動作はほぼできるようになり、アメは依然として最難関として立ちはだかっているのだそうです。

 息子がこれまで、口や指などの不器用さが理由で壁に当たり、乗り越えてきた「食べ物関係」のものを挙げてみます。

・ストローで液体を飲む
・スプーン、箸を使う
・小骨が残っている焼き魚を食べる

 息子がいつまでたってもスプーンや箸が使えず、「この子は一生、手づかみでご飯を食べるのかも」と思っていた時期、主治医の先生が「スプーンや箸が使えなくたって問題ないよ。気にするな」とおっしゃってくださったのがうれしくて、今でも覚えています。
 大丈夫ですよ、いずれ使えるようになるでしょうし、ずっと使えなくたって問題ないようですし。

 ガムとアメの他に、まだありました。スイカとブドウです。

 どちらもタネを取り除いて食べさせておりますが、自分で口の中に放り込んでタネだけ吐き出した方が絶対に美味しく感じると思うんです、特にスイカは。

 ブドウの場合、シャインマスカットという非常に美味しいタネなし品種があって、息子もぼくも大好きなのですが、高いんですよね。そうそう買えません。お手頃価格のタネなし品種を買ってきても、息子の食いつきがイマイチなんです、一応は食べるのですが。

 まだありました。「枝豆を鞘ごと口に入れて豆だけ食べる」ってのは、試したことはないですが、かなりの高等テクニックが必要になりそうです。
 われわれ家族が暮らす新潟県はブランド枝豆がいろいろありますので、新潟県人としては必須のスキルかもしれません。いずれABAで教えることになるでしょう。

 あと、これはネットの記事で読んだのですが、ロシアのヤンキー(そもそもこの表現自体が矛盾をはらんでいます)ことゴプニク(Gopnik)は、アディダスのジャージ姿で長時間座り込み、ひまわりの種を食べ続けるのが特徴なのだそうです。

 そして、上級者になると、手を使わずにひまわりの殻をむいて中身だけ食べることができるそうです。「ロシア 不良 ひまわりの種」でGoogle検索すると記事が出てきますので、ご興味を持たれた方はご覧ください。

 わが息子はゴプニクにはなれそうにないです。まあ、ならないくていいですし、ABAで教える必要もないです、それは。

 最近ママを「ビールネタ」でいじるのがマイブームになっている息子ですが、8歳の誕生日の夜、寝る前の最後の言葉が「●●(自分の名前) 20歳になったら ビールを飲む」でした。うれしいです。彼はまだ炭酸飲料が飲めないので、まずはサイダーあたりから練習です。
 ということで、枝豆を食べるスキルは、初めてビールを飲む時までに間に合えばいいので、12年かけて教えれば大丈夫だと気付きました。まあゆっくりいきます。

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