目指せ!モテる自閉症少年

1月26日に新潟市中央区で開かれた「ゆるっとABA勉強会プラス」に参加してきました。過去にこちらで告知させていただいたイベントです。ポスターを再掲します。

「ゆるっとABA勉強会プラス」のチラシ

 といっても、参加したのは妻で、ぼくは息子と一緒に会場周辺で遊んでいたため、聞いておりません。「つみきの会」新潟定例会に妻が参加する際も同じパターンで、ぼくは車での送迎and息子の世話係です。
 そして、帰りの車内で妻が「すごく勉強になった!」「素晴らしい内容だった!」「刺激を受けた!今日から頑張る!」と興奮ぎみに内容をぼくに報告し、息子はママの気を引こうとしてふざけ始める。ここまでがワンセットです。

 で、今回も同様でした。主宰者の松井先生、ゲストとして講演された緑川先生の講演について妻が熱く報告してくれた中で、一番気になったものがこれでした。

 緑川先生が息子さんの子育てをする上での教育方針の一つに、「彼女に優しくできる男を目指す」というものがあるーという話です(妻からのまた聞きですので、この講演を聞かれた方で「ちょっとニュアンスが違うよ」とお感じになった方がおられましたら、ご指摘いただければ助かります)。

 「うちと一緒だよね!なんかうれしいね」と妻。そうなんです。ぼくもうれしくなったので、この文章を書こうと思い立ちました。

 息子が2歳1カ月で自閉症との診断を受け、「つみきの会」に入り、ABAの家庭療育によって妻は息子にいろんなことを教えてきました。
 「帽子をかぶる」「トイレで用を足す」「文字を書く」などなど、「今度はこういうスキルを身につけてもらおう」と目標を立て、その目標をクリアできたり全然できなかったりと、そんな繰り返しでした。

 その時その時の教育方針、あるいは目標というものは数多くありますし、ありました。その中で、息子が3歳の頃に掲げ、われわれ夫婦にとって常に最優先かつ最重要かつ最も壮大な息子の教育目標がこちらです。

恋愛・結婚ができる子に育てる

 最初に目標を掲げた時はこういう表現ではなくて、「年上女性の情にすがって生きる術を身につける」でした。身もフタもありませんし、品もありません。でも、われわれ夫婦は当時、マジメにそう考えておりました。

 この頃、息子はまだ人見知りの傾向が強かったのですが、当時のぼくの注意深い観察によると、息子が心を許す相手には、一定の傾向というか「順番」がありました。

①30〜40代ママさん
②50代以上女性
③60代以上男性
④20代以下ママさん

 それ以外の属性の方はすべて「圏外」。「ママさん」というのは、「幼児の扱いに慣れている女性」というような意味でして、保育士さんであればOK(ただし30代以上)という感じでした。
 「男性より女性」「20代以下より30代以上」という傾向がはっきりみられたため、「年上女性の…」という教育目標になりました。

 今はこういう順番付けをしている様子はみられません。赤ちゃんには少し興味を示しますが、同世代の子どもに対しては相変わらず無関心です。

 就学前は、同じぐらいの年頃のお子さんが近づいてくると逃げる傾向がありました。今は逃げはしませんが、自分から子どもに近づいていくことはありません。
 ですので、逃げなくなっただけでも大きな進歩です。自分からグイグイいかない方が、内気な女性からは好印象を得られるかもしれません、ポジティブに考えると。

切り花を手に走り回る息子
写真=「ゆるっとABA勉強会プラス」終了後、なぜか切り花を手に会場を走り回る息子。ぼくが見ていない間に「いくとぴあ食花」のスタッフの方からいただいたようです。彼が意中の女性に花束をプレゼントする日は来るのか…=2020年1月、新潟市中央区

 この壮大な目標達成に向けた「最初の一歩」は、身だしなみを整えることです。多くの方々から賛同を得られると確信しています。その方針は正しい、と。

 「こざっぱりとした服装と髪型」「人前で鼻をほじらない」「ハンカチとティッシュは常に持ち歩く」…。とにかく清潔感が一番重要です。
 「相手の目を見て話す」「相手の話にきちんと相槌を打つ」…。自閉症という障害の特性ゆえ、こういうのは全くできませんが、大人の男でもできないヤツは結構いますし、小2の男の子がこんなことに長けていると逆に気味が悪いので、できなくても問題ありません。

 こんなふうに書いていて頭に浮かぶのは、最近あちこちで開催されている地方自治体主催の婚活パーティーです。
 こうしたイベントには、「少子化対策」という名目で都道府県や市町村から補助金(税金)が投入されているものも多いです。地方のイベント業者のいい稼ぎ口になっています。

 ぼくが若い頃はこういうイベントはありませんでしたので、もちろん参加したことはありません。好奇心から市役所など公共施設に婚活パーティーのチラシやポスターがあると必ず見るのですが、それらにはたいてい、「男性の参加希望者は、主催者は事前に開くマナー講座への出席が必要です」という注意書きが入っているんです。
 これを初めて見つけた時、少なからず衝撃を受けました。

 婚活パーティーに参加する男性は、女性とお付き合い(その先に結婚)したいわけですから、女性から敬遠されるような言動をしない方がいいというのは、誰でも容易に想像つくと思います。
 けれども、男の参加希望者にだけマナー講座への参加を義務付けなきゃいけないってことは、そういう「教育」「指導」を事前に行わないと「恋愛市場」への参入が難しい男性が多いという現実があるのでしょう。

 しかし、裏を返せばこれは、「マナーがよければ、それだけで第一関門は突破できる」ってことです、たぶん、きっと。息子にもチャンスはあるはずだ。

 唐突にYouTubeの動画を挟みましたが、こちらは「リア充爆発しろ!」というタイトルの曲です。
 自閉症児の療育ブログを読まれる方とこういうコンテンツを好む方は重ならないと思われますので、動画に関する説明をニコニコ大百科(仮)から引用します。

リア充爆発しろ!とは、2ちゃんねる大学生板で使われていた、リア充に対しての嫉妬を意味する言葉。
ニコニコ動画では、2009年10月25日に投稿された、KAZU-k作曲・桃華なゆた作詞の初音ミクオリジナル曲。

ニコニコ大百科(仮)「リア充爆発しろ!」より

 「リア充」というネット発祥の用語についての説明もこのサイトにありました。リアル(現実の世界)が充実している状態、またはそのような人物のことで、主に「恋人がいる人」を指します。

 当時の大学生ら若者が「恋人がいない自分」を自虐的にネタしたところから派生して、この曲が生まれたようです。個人的に「リア充爆発しろ!」のセンスとノリは好きですし、ある程度は共感もできます。

 ただ、ネットの世界を長年眺めていると、異性(1*)から「相手にされない」ことがいかにその人の心を蝕むかーということを考えさせられることが結構あります。
 ネットに書き込まれる文面は一見、ユーモアや自虐ネタで包まれていたり、過剰に他者に攻撃的だったりするのですが、その人がどんな思いで書き込んでいるかとふと想像すると、少し切なくなります。

 親としては、息子には「リア充」になってほしいと願っております。

 息子はまだ8歳になったばかりですので、恋愛も結婚も気の遠くなるような先の話ではあります。とにかく今やるべきは、学校で鼻をほじらないように指導すること、これに尽きます。

 しかし、重度自閉症児(者)におけるリア充=「現実の世界が充実している状態」とは、どういうものか? とても奥深いテーマです。

 その人にとってどういう状態が「充実しているのか」ということは、第三者が勝手に決めつけて哀れんだり羨んだりするものではないはずです。障害により興味・関心の範囲が極めて狭い息子は、現状を「充実していない」と不満に感じることが少ないかもしれません。それでも彼には、世界の広さ・多様さを彼なりに少しでも知ることによって、彩りある人生を送ってほしいですし、そのための手助けをしていければと思っております。

 (*1)LGBT当事者の方々も含めた場合、「その人が恋愛対象である性を持つ人」という書き方が妥当ではあるのですが、分かりやすさを優先して、あえて「異性」という表記にしました。表記の仕方が不適切であるとのご指摘がありましたら、差し替えます。

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