「発達障害児の親が使いやすい施設」をめぐるジレンマ

 持って回ったタイトルですが、要は「利用者がものすごく少なくっていつ行ってもガラガラだけど潰れないで続いている施設は(公共、民間を問わず)貴重でありがたいよね」ってことです。発達障害児を育てる保護者の方なら理解していただけると思います。

 お子さんの人見知りが激しくて、こだわりが非常に強い時期ですと、せっかく親子で外出しても、周囲の迷惑になりかねない行動を繰り返したり、大声を上げたりして居たたまれなくなり、「すみませんすみません」と心の中で繰り返しながら撤収した経験があるのではないでしょうか。気兼ねしないで過ごせる場所を探すのも一苦労ですからね。

 わが家の場合、休日に家族で日帰り温泉に行くことが多いのですが、非常に手が掛かった6歳ぐらいまでは、なるべくお客さんが少ない施設に、なるべくお客さんが少なそうな時間帯に行くようにしていました。

 脱衣所と内風呂、内風呂と露天風呂の間にあるドアの開け閉めを繰り返し、浴槽のお湯をタライですくっては流しまくり、洗い場の椅子やタライを一列に並べ、興奮すると奇声を発する…。周囲の目を気にしてばかりいると、疲弊しまくります。

 ぼくはそういう子を見つけると「おっ、仲間がいた」と少しうれしくなるのですが、発達障害児と縁のない大多数の人々にとっては、「変な子どもがいる」なんですよね。
 もう慣れたので平気ですが、息子がまだそんな感じで、メンタルが今ほど鍛えられていない頃は少しヘビーでした。

 ちなみに、お出掛けする場合、大雨や台風、猛吹雪の日などは、そもそも外出する人が少なくなるので、狙い目なんです。これは「発達障害児の親あるある」かもしれません。

 日帰り温泉で息子が男風呂に(ぼくと一緒に)初めて入ったのは、5歳8カ月の時です。それまでは、家族で日帰り温泉に行くと、

  1. ぼくは男風呂、妻と息子は女風呂へ
  2. 先にぼくがお風呂から上がる
  3. 女風呂から出てきた息子と合流
  4. 妻が女風呂から上がるのを2人で待つ

という流れでした。これだと、妻はいったん脱衣所に戻って息子の身体を拭いて着替えさせ、またお風呂に戻るーという作業が必要になって煩雑ですし、息子は男の子ですので、早く男風呂に慣れさせないといけないとも思っていました。

 ぼくがそれまで、息子と一緒に男風呂に入るのをためらっていた理由は、妻のように上手に息子を誘導できるか自信がなかったこととともに、「男風呂に入っているおじさんやおじいさんより、女風呂に入っているおばさんやおばあさんの方が障害児に寛容なのではないか」という先入観もありました。
 世代的に子育て経験が極めて少なそうな高齢男性がたくさんいて、「なんなんだこのガキは。うるせぇな」と怒鳴られるリスクが高いと。

 でも、これまで2年以上にわたって息子と二人で男風呂に入っていますが、そんな経験は一度もしていません。
 奇異の目で見られることはありますが、「元気な坊やだね」と声を掛けてきてくださる方もいたりして、「世の中捨てたもんじゃないなぁ」とうれしくなります。

温泉施設の敷地内を歩く男の子
初めての男風呂を満喫した後、日帰り温泉を後にする息子=2017
年8月、新潟県阿賀町

 ぼくが息子と初めて2人で行った日帰り温泉は、福島県境に近い新潟県阿賀町の施設でした。今でもよく覚えています。
 真夏の土曜日でしたが、雲が厚くて空は暗いし、時折雨も降るし、妻はパートでいないし、公園や海で遊ばせることもできなさそうだし、「絶好のお出掛け日和なので、いつ行ってもお客さんが少ない(失礼!)あの温泉に行ってみるか」と思い立ちました。

 車で片道1時間半もかかりますが、着いてみると、読み通りでお客さんはゼロ。息子は心ゆくまでドアの開閉を繰り返し、洗い場のタライと椅子を何度も何度も並べ直し、ぼくも気兼ねなくゆっくりとお湯に浸かり、それぞれに満喫したのでした。
 この最初の成功体験に気を良くして、以後はお客さんがいそうな施設や時間帯にも出掛けることで、少しずつ慣れさせていきました。

 というわけで、「利用者がものすごく少なくっていつ行ってもガラガラだけど潰れないで続いている施設」は貴重なのです。ガラガラだからといって、みんな建物が古くて立地が不便でサービスのレベルが低いというわけではありません。

 「いいところだけど、なぜが客が少ない」穴場を狙うわけですが、ジレンマもあります。

 お客さんが少ない赤字・不採算の施設は閉鎖・廃業する可能性があるわけですが、その施設の魅力が正しく世の中に広まってお客さんが増えると「発達障害児とその保護者のパラダイス」ではなくなっていく。
 ですので、ぼくはそういう穴場を見つけると、施設の存続を応援する気持ちもあって、なるべく多く通うようにしていました。

 何が言いたいかというと、一見してお客さんが少なくて寂れている施設でも、非常にありがたく利用しているファンもいるんです。寂れた日帰り温泉施設愛好家としては、その点は強く訴えたいところです。

 極端に効率ばかりを追求して「のりしろ」みたいなものがない社会って、すごくギスギスして生きづらいと思うんです、発達障害者とその保護者はもちろん、障害がなかったり障害者の関わりの薄かったりする多くの方々にとっても。

 われわれ家族が暮らす新潟県も含め、どこの地方でも公的病院が膨大な赤字に悩まされ、規模縮小や廃止の議論が進んでいます。でもね、公的病院って採算が取りにくいけど必要性が高い場所に立地しているケースが多いわけです。人口が多くて「儲かりやすそう」な場所であれば、行政が何もしなくても民間の医療機関がどんどん進出するでしょうから。
 赤字縮減の努力をしないまま税金垂れ流し状態というのは問題でしょうが、数字だけを捉えて「赤字・不採算=悪 or 経営陣が無能」と短絡的に決める付けるのはどうかと思うんです。温泉施設とは深刻度がかなり異なる話ではありますが。

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