入所者家族が事件後に強めた社会への不信〜やまゆり園障害者殺傷事件より003

この事件を起こした死刑囚は19人の障害者を殺害し、27人が負傷させました。

結句、公判では大半の犠牲者、被害者が甲さん乙さんと、年齢も性別も伏せられて紹介された。その異様さが、この社会における障害者差別の深刻さを示していた。

「パンドラの箱は閉じられたのか〜相模原障害者殺傷事件は終わっていない」(月刊「創」編集部編、創出版)P24より

 警察が事件についてマスコミに広報する際は被害者、加害者といった当事者を実名で発表するのが通例とされているそうですが、この事件については、遺族からの強い要請に基づいて被害者は匿名で発表されたのだといいます。

 これまで読んできた事件関連の本には、ご遺族も含め、多くの重度障害児の親御さんの話が紹介されていました。

 子どもの障害に全く向き合おうとしない父親、施設で暮らす子どもの存在を親戚や結婚相手に伏せている家族など、悲しくなる事例がいくつか載っていました。

 これだけ聞くと「ひどい親がいるもんだ」と思われるかもしれませんが、こういう「ひどい親」というのは、子どもの障害の有無に関わらず一定数いるはずです。

 当然ですが、障害者の親がみんな、子ども思いで優しい「できた人」ばかりではありません。立派な人もいれば、困った人もいる。

 一般社会と同様、いろんな人がいるのは当たり前のことです。

私は親に弟の障害を隠すなと言われて育ってきましたが、亡くなった今は名前を絶対に公表しないでほしいと言われています。この国には優生思想的な風潮が根強くありますし、全ての命は存在するだけで価値があるという事が当たり前ではないので、とても公表する事はできません。

「開けられたパンドラの箱〜やまゆり園障害者殺傷事件」(月刊「創」編集部編、創出版)P18より

 これは2016年8月に東大先端科学技術研究センターで開催された「『津久井やまゆり園』で亡くなった方たちを追悼する集会」で最初に読まれた、犠牲者の姉の匿名メッセージです。

 犠牲者の親御さんは、障害を隠すことなく堂々と生きてこられました。

 しかし、事件に巻き込まれたことによって、「優生思想的な風潮」がこの国にあることを突き付けられ、「名前を絶対に公表しないでほしい」と考えを変えざるを得ないまでに追い込まれたのです。

 気持ちは痛いほど分かります。

 われわれ家族も、息子の障害については「いろんな人に理解してもらいたい」との思いから積極的にオープンにしています。

 しかし、全国的に大きな注目を集める事件に巻き込まれて「匿名か実名か」を迫られたら、ぼくも「匿名」を選ぶと思います。

 「この国には優生思想的な風潮が根強くありますし、全ての命は存在するだけで価値があるという事が当たり前ではない」という現状認識は、このご遺族の方と同じです。

 そんな社会ではありますが、面と向かって障害者差別をしてくる人はさすがに、極めて少ないと思われます。

 実名を出した被害者ないし被害者家族に対し、自らの名前と顔を晒してまであえて差別しようとする人とはきっと、(非常に不快な思いはするでしょうが)向き合って口論することはできます。

 しかし、匿名での差別や誹謗中傷が大量に寄せられたら、被害者側はただただ不快な思いをするだけで、なんら得られるものもありません。

 個人情報がばら撒かれ、粗探しをされ、偽情報も出回ることでしょう。

差別には、一応みんな理屈をつけるわけですよね。逆に言うと、理屈がつけば差別していいという恐ろしい発想が背景にある。
生命には社会に果たしている貢献度に応じて価値があるという、馴染みやすいけれども間違った発想が、根本にあるのではないかと思います。一言でいえば、村人の発想ですよね。

開けられたパンドラの箱〜やまゆり園障害者殺傷事件」(月刊「創」編集部編、創出版)P236より

 「措置入院をめぐる誤った見方ー佐賀バスジャック事件を教訓化しなかった誤り」と題された精神科医・斎藤環さんのインタビューから抜粋しました。

 鋭い指摘です。

 差別したがる人間もきっと、理由なく差別するのは気がとがめるのでしょう。だから、暇に任せて相手の粗探しをすることで、「差別していい理屈」を探し出そうとするのです。

 そして、「差別していい理屈」があるのだから、その相手を差別し攻撃することは正しく、いいことをしているような気にすらなってしまう。

 そんな中で、ネットの世界には、差別をあおるのを商売にしている人がいます。

 差別をしたいけれど「差別していい理屈」を考えるのが面倒な人向けに理屈を提示し、「辛口」と称して救いのない差別意識をばら撒き、それによって名前を売ったりクリック数を稼いだりすることで収入を得ようとする人が。

 犯罪被害に巻き込まれて打ちひしがれている時に、実名を出すことによって、そんな連中からの攻撃にさらされるわけです。ぼくもイヤです。

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