いつの間にか口笛を吹いていた
担任の先生に専用ノートにシールを貼ってもらうことで学校での問題行動を減らす取り組みは、3学期に入ってからも順調に成果を上げておりました。
「大きな声を出さない」「ホワイトボードを消さない」など、あらかじめ約束したことを授業時間内に守ることができればシールを1枚貼ってもらえるーという仕組みです。簡単かつ効果絶大な対処法ということで、過去記事で紹介しました。
しかし息子は最近、「脱法的な手法」を編み出しました。
ホワイトボードを消さなくなり、大きな声を出す頻度は下がったのですが、先生によると、今度は「イスをガタガタさせる」「口笛を吹く」という手を使うようになったそうです。
息子としては、授業に飽きてきて先生に注目してもらいたい時に大声を出していたのでしょうが、新しい制度が始まってからは、大声を出すとシールがもらえず放課後に公園に連れて行ってもらえなくなった。しかし、先生から注目してほしい。
たぶんそんなふうに考え、これらの行為を始めたのでしょう。
ということで、妻は先生から通報が寄せられた翌日、授業中の約束事に「イスをガタガタさせる」「口笛を吹く」を加えたことを息子に通告しました。
これによって、これらの問題行動は少なくなるでしょう。そして同時に、息子はまた新たな問題行動を編み出してくるはずです。
その時が来れば、同じように対処することになるでしょう。「モグラ叩き」のようなものでして、何ら悲観するところはありません。別の場所に出てきたモグラの頭を探すだけです。
なのですが、「授業中の問題行動を減らす」ということとは別に、これまでに経験したことがない、新たな悩ましい難題が浮上してきました。口笛のことです。
息子が口笛を吹けるようになったのはたぶん、昨年末です。年明け、妻と息子の3人で家にいる時、口笛が聞こえてくることが何度かありました。
ぼくは「妻が吹いたのだろう」と気にしていなかったのですが、その後、妻と会話している時に話題に上り、息子が吹いているのだと分かったのです。
そういえば、昨年末に息子と一緒にスーパーで買い物している時、口笛が聞こえてきたことがありました。今思えば、それも息子が吹いていたのでしょう。
「子どもの口笛ぐらいで大げさな」と思われる向きもあると思います。しかし、彼は重度自閉症児なのです。
妻は息子に対し、「靴を履く」「帽子をかぶる」「トイレで用を足す」など、日常生活のあらゆることをABA(応用行動分析)を使った家庭療育で教えてきました。
2歳の頃から続けている家庭療育は日々、ほんの少しずつレベルを上げたり条件を変えたりしながら何度も何度も繰り返すという非常に根気のいる地道な作業です。
一つのことができるようになるまで何年もかかるものもあります。
彼が「自然に覚えた」ことは極めて少なく、大部分は「教えたからできるようになった」ことなのです。
別の言い方をしますと、彼の障害の「重さ」を考えると、何も教えていなかった場合、8歳1カ月になった現在も「靴を履く」「帽子をかぶる」「トイレで用を足す」ことができていなかった可能性が高いと思われます。
妻は家庭療育で「ガムの噛み方」は教えているのですが、口笛の吹き方は教えていません。そして、妻は口笛が吹けないそうで、ぼくも吹く習慣はありません。
口笛が入っている曲(Billy Joelの「The Stranger」ぐらいしか思い付きません…)を繰り返し聴いているわけでもありません。
彼が聴いているのはもっぱら、米津玄師と護得久栄昇(ごえく・えいしょう)ですので。
少しくどい説明になってしまいましたが、息子は「口笛を吹く」という行為を教わったわけではなく、誰かの真似をしたわけでもなく、「自然に覚えた」のです。ものすごくレアなケースといえます。
おそらく、なんとなく唇をとがらせ、なんとなく息を出し入れしていたら音が出て、面白くなって繰り返すようになったのでしょう。
そんなことを考えていて頭に浮かんだのは、「世界最古の管楽器」といわれるアンデスの民族楽器「サンポーニャ」です。
サンポーニャは長さの違う葦の茎を組み合わせただけの原始的な楽器で、4000年以上前のアンデスで、折れた葦に風が吹き込んで音楽を奏でているように聞こえたインディオたちが考案したという説があるそうです。こんな楽器です。
何やら話が妙な方向に飛んでしまいましたが、教えていない口笛を自然に吹けるようになったのには感動したなぁということを申し上げたかったのです。
これだけ感動しておりますので、「口笛を吹いちゃダメ」という指導は心情的にしたくありません。
ですので、息子には「学校では口笛を吹くのは我慢してね。その代わり、登下校の時や学校以外の場所だったら、いくら吹いてもいいからね」と言い聞かせようと思います。
サンポーニャという超マイナーな楽器が唐突に出てきますが、大学時代に南米の民族音楽サークルに入っていたぼくにとってはなじみ深いものなんです、どうでもいい話ですが。息子も4000年前のインディオのように、「あれ?なんでか分からないけど音が出る」と気付いて吹き始めたのかもしれません。「偶然の産物」という点では同じはずです、たぶん。
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