「テレメンタリー2020『強度行動障害~わが子を手放す日~』を観て思ったこと」というタイトルのブログを読んで思ったこと
タイトルに挙げた「テレメンタリー2020『強度行動障害~わが子を手放す日~』を観て思ったこと」というタイトルのブログは、「札幌発☆発達凸凹応援団ワン・シード」さんが7月19日に書かれたものです。
一昨日の夕方、職場にいたぼくに妻がLINEで
せつない記事発見!😢
まったく同感で、「●●の会」の話を聞いたみたいにせつない😢
という文章とともにリンクを送ってくれました。
伏字にした「●●の会」というのは、強度行動障害がある子どもを持つ保護者でつくる地元のグループで、妻が数年前に講演を聴いたことがありました。
ぼくはこの番組を観ていません。この方のブログと同じように、番組の概要について、ザ・テレビジョンのサイトの記事「強度行動障害の男性と家族を追ったドキュメンタリー」から引用します。
滋賀県守山市に住む和田智泰さん(取材開始時17歳、現在20歳)は、重度の知的障害と強度行動障害がある。強度行動障害とは、自閉症の人にあらわれる後天性の障害だ。
ザ・テレビジョン「強度行動障害の男性と家族を追ったドキュメンタリー」より
物をたたいたり、自分自身を傷つけたり、激しい行動があらわれる。この障害がある人は日本に8000人ほどいると推測されているが、詳しい調査は行われていない。
智泰さんは食事、入浴、排泄、着替えなど、生活のすべてに介助が必要で、父親の進さん(取材開始時58歳、現在60歳)と母親の泰代さん(取材開始時50歳、現在52歳)が、つきっきりで支えてきた。
夜、智泰さんは自宅の中で声を上げたり飛び跳ねたりするため、週末の3日間はドライブに連れて行く。あてのない夜のドライブを4時間続ける。
進さんは、智泰さんの介護を優先するため、今から5年前に会社を辞めた。その後、新聞配達と、融通のきく非正規の仕事を掛け持ちしながら、家族を支えている。
しかし、夫婦ともに歳をとり、息子を支え続けることが限界になってきた。
和田さん夫婦は、智泰さんが養護学校高等部に在籍している頃から、息子が暮らすための障害者の施設を探してきた。滋賀県内の施設は全て満床。京都府、奈良県、石川県、岡山県など他府県に足を伸ばして施設を探した。なかなか見つからなかったが、あるグループホームが受け入れてくれた。
そもそも、障害者の施設は、全国的に不足している。特に、重い知的障害の人を受け入れる施設が足りない。
制作は大阪の ABCテレビ。わが家はテレビをほとんど観ない(地元コミュニティーFMをBGMのようにずっと流してはいますが)のですが、民放がこんなに素晴らしいドキュメンタリーを創ることもあるんですね。見直しました。
再放送があればぜひ観てみたいのですが、その機会がなくても、このザ・テレビジョンの記事の冒頭に掲載されている写真を見るだけで、内容の大部分を想像することができます。
深い愛情と諦念と疲労が色濃くにじんだお母さまの表情、強度行動障害の当事者である息子さんの「とにかく目の前にいる母に頼るしかない」と言わんばかりの虚ろで透明な表情。
「そういう表情をした一瞬があった」というのではなく、濃密でものすごく長い時の流れが刻み込まれた表情。
このドキュメンタリー番組の一場面から切り取ったものでしょうが、写真1枚に入っている情報量が多すぎて胸が苦しくなります。
見るものに訴えかける力が強い、残酷なほどに(報道作品として)優れたワンショットです。
妻が「まったく同感」と伝えてきたのは、この番組をご覧になった「札幌発☆発達凸凹応援団ワン・シード」さんの感想の部分です。
引用させていただきます(蛍光マーカーは筆者)。
それほど広くない住宅に
札幌発☆発達凸凹応援団ワン・シードHP「テレメンタリー2020『強度行動障害~わが子を手放す日~』を観て思ったこと」より
4人家族がひしめき合うように暮らしていますが
重度の自閉症者が暮らしているとは思えないほど
構造化も視覚支援もされていません。
いえ、批判したいわけではないのです。
でも、誰も教えてくれなかったのでしょうか。
それとも、ごのご家族がそういったものを
拒否していたのでしょうか?
絵に描いたり
写真を貼ったり
順番をつけたり
分かりやすい支援が
ほとんど見当たらないのです。
(略)
多分、幼少時からABAで療育をして
住まいを構造化して
視覚的な支援をすれば
少なくとも「強度行動障害」には
ならなかったはずです。
(略)
たぶん、ご両親にそのような情報は伝わっておらず
通園施設はあったかも知れないし
養護学校に通っていたかも知れないけれど
自宅での過ごし方を教えてもらえなかった
学校でも行動障害を変容するような
対応には至らなかった・・・これが日本の現実ですね。
強度行動障害があるお子さんの保護者の講演を聴いた後、妻も同じようなことを言っていました。
妻の記憶を元に、講演の内容を紹介します。
数年前のことですので記憶が不確かで、複数の保護者さんの体験を一緒くたにしている可能性もありますが、「ざっくりと、こんな感じだった」ということは伝わると思います。
・当事者はみんな男の子で、高校生ぐらいの年齢
・ずっとパソコンからゲームをしていて、冷蔵庫を勝手に開けて好きな時に食べ、要求が通らないと暴れて家を破壊する、親に暴力を振るう
・療育を始めるように勧められ、どんなに殴られても声を出さない、冷蔵庫に施錠するーなどの対処を始める
・対策を始めた頃は、かつてないほど暴れたが、少しずつ効果が見え始めた
ドキュメンタリー番組に登場された保護者の方と、講演された方の共通点は、「お子さんが小さい時に十分な家庭療育が施されていなかった」ことです。
ブログを書かれた「札幌発☆発達凸凹応援団ワン・シード」さんも、慎重に言葉を選びながら、「早期療育があれば、当事者も保護者も『生きやすく』なったのではないか」という趣旨の指摘をされています。
ドキュメンタリー番組に出られた保護者の方も、講演された保護者の方も、お子さんがまだ小さかった頃、早期療育に関する情報にたどり着けなかったかもかしれません。
あるいは、早期療育の大切さを認識しながらも、第三者にはうかがい知れない事情があって実践できなかったのかもしれません。
しかし、そうだとしても、当事者のお子さんと保護者の周囲にいる教育、医療、福祉、行政などの関係者が「もっと早い段階で手を差し伸べることができなかったのだろうか」と考えてしまいます。
積極的な介入ができなかったとしても、早期療育の有効性に関する情報提供はできなかったのだろうか、と。
過去の壮絶な体験を振り返ることは精神的に負担が大きいはずです。
ドキュメンタリー番組に出られた保護者の方も、講演された保護者の方も、「自らの体験談が誰かの役に立てば」との思いから貴重なお話を聞かせてくださっているのだと思います。本当にありがたいことです。
われわれ家族の歩みを振り返るに、1歳半検診の時に「気付いた」保健師さんがいろいろとアドバイスをしてくださり、2歳1カ月の時に保健所で診断を受け、その直後にネットで見つけた「つみきの会」に入り、ABA(応用行動分析)を使った家庭療育を始めました。
周囲の方々の導きや小さな幸運が重なったことで、早い段階から療育を進めることができたのだと思います。ただただ感謝しかありません。
療育を始めたことで、妻もぼくも、彼の「障害の重さ」を思い知ることになりました。実際、何年か後には「重度自閉症、中度知的障害」という立派な(?)診断名もいただきました。
ボクシングの階級でいうと、ライト級とヘビー級の間、ウエルター級かミドル級ぐらいの感じでしょうか、どうでもいい例えですが。
そして、療育を始めたことで、非常に時間はかかりましたが、排泄や着替えといった身辺自立、規則正しい生活リズム、言語の遅れをカバーするための意思疎通の仕方などを身に付けることができました。
昨年9月から始めた息子のブログ、今書いているこの文章は84本目の記事になります。
「モテる男になってほしい」など、深刻さのまるでない身辺雑記ばかり書いていられるのも、早期療育のおかげといえます。
障害がある当事者と、障害があるお子さんを育てている保護者、療育、教育、医療・福祉、行政の担当者(引っくるめて「関係者」)以外の方々と会話をしていて、話の流れ的にたまたま息子の障害について触れると、皆さん深刻そうな表情になって熱心に話を聞いてくれます。
共感性が高かったり、根が優しかったりするゆえ、そういう反応になる方もおられると思われますが、おそらく、「まったく知らない世界のことだから、どう反応していいか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
当事者家族としては、「いや〜気を遣わせて申し訳ない!」という気持ちになります。
当たり前ですが、障害児を育てている家庭だからといって、365日24時間、常に眉間にしわを寄せて深刻そうに暮らしているわけではありません。
われわれ家族について言えば、楽しいことがほとんどです。自閉症という障害のことを常に考えているわけでもなく、障害に起因しない息子固有の性質(目立ちたがり屋、お調子者などなど)に驚き呆れることの方が多いのです。
息子はまだ8歳7ケ月で、これから大きな壁にぶち当たって立ち往生するかもしれませんし、立ちはだかる壁をテキトーにすり抜けていくかもしれません。
息子は日々、ものすごくスローではありますが着実に成長していますので、まあ何とかなるでしょう、たぶんきっと。
これまでも何とかなってきたのですから、そう思うことにします。
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