学校だよりに「人罪」「人財」と書いてプチ炎上した北海道の小学校の校長先生、悪い人でないことは伝わってくるけれど、かなり残念な感じではある

プチ炎上でしたのでご存知ない方も多いかもしれませんが、北海道のある町立小学校の校長先生が「人財となるための7つの条件」と題した文章を「学校だより」に掲載したことがネットで話題になりました。

 ネットメディアのJ-CASTニュースが、「YESが0の人は『人罪』」小学校だよりが物議 書いた校長「7つの大事なことを伝えただけ」というタイトルで記事にしていました。

 このニュース、ぼくはメディアが取り上げる前に、Twitterで話題になっている段階から知っていました。

 このツイートをされた石井淳平さんを存じ上げておりませんでしたが、ぼくがフォローしていた方のリツイートで知りました。

 北海道厚沢部町で「自然や文化財を活用した過疎地域のまちづくり」に取り組んでおられる方とのことです。

 これを読んで、石井さんのご指摘に「本当にそうだよなぁ」と共感していたのですが、いつの間にネットメディアが記事化してYahoo!ニュースに取り上げられ、「5ちゃんねる」にもスレッドが立っていました。

 石井さんのツイートにも抜粋されておりますが、この小学校の公式サイトに掲載されていた「学校だより」からあらためて引用します(J-CASTニュースで学校名が匿名になっていましたので、ここでも匿名にします)。

○ 明るく、元気な挨拶ができる。
○ 言われなくても、自分で考え、行動できる。
○ 人が嫌がることでも、進んで取り組める。
○ 常に「どうしたらできるか?」を考える。
○ 仕事の納期を、きちんと守ることができる。
○ ミスやクレームなどの報告を、すぐにできる。
○ 人が見ていなくても、手を抜かずに仕事ができる。

北海道の某小学校「学校だより」より

 この「7つの条件」で、YES が7の人は「人財であり、会社が求めているよい「じんざい」であって、該当する数が減っていくと「人材」「人在」と呼び名が「下がって」いって、YESがゼロだと最下層の「人罪なのだそうです。

 経営コンサルタントとか中小企業の経営者の方って、こういう「おやじギャグ」みたいな言葉遊びが好きですよね。

 セクハラ・パワハラから始まってすごく種類が増えた「〜ハラ」、婚活・就活から始まってこれまた無限に拡散を続ける「〜活」を思わせるところがあり、サラリーマン川柳に近いノリも感じます。

 「趣旨は分からないでもないし、本人はうまいこと言っているつもりで得意げなんだろうけど、身の蓋もないしユーモアにも欠けているしで、ちょっと嫌な気分になるし、人生の時間は限られているわけだから、こういうこと言う人や組織とはなるべく付き合いたくないよね〜」ってとこです、個人的には。

 こういうのは世知辛い大人の世界の話であって、学校のトップである校長が保護者や児童にする性質の話ではないと思います。

 学校で教師が言ったら、それを聞いた児童がクラスメートのことを「この子はクラスの人罪」とか分類して、いじめに発展しそうではないですか。

 石井さんのツイートにある通り、「我が国の教育の目的がなんであったかを教育者がまったく念頭においていないことを堂々と表明してる」わけです。

 これ、息子が通う小学校でこの学校だよりが配られていたら、ぼくも同じようにツイートしていたかもしれません。

 そして、市議会の一般質問で取り上げられ、地元新聞の記事になって、夕方の民放のローカルニュースの小ネタになっていたかもしれません。

 それにしても、なぜ、こんな内容の研修が行われ、この校長先生が研修を受けたのか。

 J-CASTニュースの取材に対し、この校長先生が参加した研修の講師を務めた道商工会議所連合会の政策企画部長がコメントしています(蛍光マーカーは筆者)。

 校長はどうあったら資質が向上するかを話すときに、1つの指標として使いました。学校経営で、教頭以下の組織マネジメントをどうするかということです。『人罪』は、極端の例としてあるだけで、そのまま人に使うのはダメですね。
 …子供に使うとは一切話しておらず、使うものではありません。そういうふうに使われたとすれば、本意ではなく、違うのではないかと思います。条件は、経営者の心構えを説いたもので、人に使うべきではなく、自分に当てはめてほしかったですね。

J-CASTニュース 「YESが0の人は『人罪』」小学校だよりが物議 書いた校長「7つの大事なことを伝えただけ」より

 とても的確な受け答えで、論旨もしっかりしています。のちに触れる校長先生のコメントとえらい違いです。

 研修の主催者としては、教育のベテランではあるけれど組織運営の経験はそれほどない校長に対して「教育の場」を設けたってことであって、「人財か人罪か」ってのは未熟な校長である自分自身に当てはめて考えてほしいーということだったわけです。

 この校長先生には趣旨が正確に伝わっていなかったようですが。

 「『人罪』をそのまま人に使うのはダメ」ってのも、そりゃそうよ、いい大人なんだから自分で気付けよって。

 J-CASTニュースの記事には、この校長先生のコメントも載っています。

 ネットメディアって手抜きの記事が結構ありますが、J-CASTニュースはちゃんと公平に取材していて素晴らしいです。

 この条件を使った教職員や児童の評価は「一切やっていない」と否定した上で、こんなふうに答えていました(蛍光マーカーと太字は筆者)。

   子供にも当てはめたことについては、「明るく元気なあいさつは大事なことだと思って提示しました。学校だよりは、一般的なこととして感じたことを書いただけです」と説明した。
  人罪という表現を使ったことについては、「それについての意見は何も書いておらず、7つの大事なことを伝えただけです」とした。

J-CASTニュース 「YESが0の人は『人罪』」小学校だよりが物議 書いた校長「7つの大事なことを伝えただけ」より

 この部分を読んで、この校長先生が「悪い人」ではないことは伝わってきます。

 そう、「悪い人」じゃないんです。

 教育者として、組織管理者として、教育行政に関わる公務員として「かなり残念な人」というだけなのです。

 悪くはない。

 教育者としての「残念さ」は、冒頭に引用させていただいた石井さんのご指摘通りです。

 学校ってのは、特に義務教育学校ってのは、産業界が使いやすい労働者を生産する工場ではないはずです。

 組織管理者としての「残念さ」は、自分が受けてきた研修内容をそのまま「学校だより」に載せて、各方面から批判が寄せられる事態を引き起こしたことです。

 教育行政に関わる公務員としての「残念さ」は、このJ-CASTニュースの取材に対する受け答えに集約されています。

 このコメントから誠実さが全く伝わってきませんし、事態をなるべく早く収拾させられるかどうかというマネジメントの観点からみても、全くダメです。

 引用した記事の一部に蛍光マーカーを引きましたが、この「一般的なこととして感じたことを書いただけ」「7つの大事なことを伝えただけ」っていう言葉で何が言いたいかというと、たぶん、「自分の言動に悪意(他意)はないのだから悪くはない」ってことなんだと思います。

 他人を殴っておいて「ただ手を振り回したら当たっただけセクハラ発言されて怒っている相手に「思ったことを言っただけと、子どもが口を尖らせて言い訳するのと同じです。

 こんなふうに「子ども」という言葉を使うのは子ども全般に失礼なのは承知の上で、分かりやすさを優先させてあえて使いました。ごめんなさい、子どもたち。

 この校長先生はご自身の「お気持ち」を表明しているだけで、自分の言動で起こったことには一切言及していないわけです。

 ネット上の反応には、「それなら、発達障害児(者)はみんな『人罪』なのか」というものがありました。

 これは、自閉症児の親としてぼくも思ったことで、わが息子に当てはめたところで、彼は将来的にもすべての項目をクリアできないでしょうし、この基準だと「人罪」ってことになります。

 この校長先生がいる学校に支援学級があったとしたら、支援級の保護者の方々はこの「学校だより」を読んでどう思われたのでしょうか。

 ただ、遠く離れた新潟県の小学校の支援級の保護者であるぼくは、この件に関するストレートな怒りみたいなものは全くありません。

 感情としては、「怒り」ではなく「苦笑い」です。

 「じゃあ、なぜブログで蒸し返すような記事を書くの?」と聞かれると、よく分からないけれど何か引っ掛かったからです。

 なぜこんな「残念な」ことが起こったのか、気になって仕方なかったのです。

 なぜここまで心に引っ掛かったのか、「著述業・小説家、プリキュア御意見番」という肩書を持たれる与方藤士朗さんのツイートを読んで気付くことができました。

 そうだ、こういうことだったんだ。

 小学校の校長なのに、小学生の児童みたいに「子どもじみた」ことをしたからなんだ。

 学校教育の世界でずっと過ごしてきたであろうこの校長先生にとって、研修で聞いた「人財」「人罪」の話はきっと、新鮮で面白かったのでしょう。

 で、「ねぇねぇ、ぼく、こんな面白い話を聞いてきたよ」ってノリで、学校の児童や保護者、自分の部下に当たる教職員の全員が読むであろう「学校だより」に書いてしまった、と。

まちがったら
すぐ「ごめんなさい」とあやまる
すなおな心

 ぼくからは、この校長先生に、こんな言葉を贈りたいと思います。

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