「男の子は乗り物好き」という傾向は自閉症児にも当てはまるのか?

少し前に5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)で「『男の子が乗り物、女の子が人形に興味を示すのは大人がそう刷り込んでいるのに過ぎない』←これ実際どうなの?」というタイトルのスレッドを見つけ、面白くて書き込みを全部読みました。

 ネットでこの手のジェンダー(社会的・文化的につくられる性別)の話題になると、極端な主張をする人たちが二手に分かれて不毛な罵り合いをする展開になることが多いのですが、珍しくこのスレッドは殺伐としていなくて、それなりに建設的に議論が展開されておりました。

 一部を引用します。

結局子供達も社会的動物である以上、無意識かつものすごく早い段階で大人並みの社会性を獲得しているだけや

ある程度は親に誘導される
環境を与えてるんだから当然だが
そこから兄弟の有無や関係なんかも影響する


女は人に興味があって
男は物に興味があるって説があるが

5ちゃんねる・ニュー速(嫌儲)板「『男の子が乗り物、女の子が人形に興味を示すのは大人がそう刷り込んでいるのに過ぎない』←これ実際どうなの?」より

 3つの書き込みともそれぞれ、うなずける部分はあります。

 大人が子どもに対して「男(女)らしさ」を無意識あるいは意識的に刷り込むから「男(女)っぽく」なるのか、それとも持って生まれた特性ゆえなのか。学術的に結論が出ているのかもしれませんが、自閉症児の親としても、なかなか興味深いテーマです。

 関連がありそうな話として、「自閉症児は方言でしゃべらない」という説を思い出しました。息子に診断名が付いたばかりで、自閉症について調べまくっていた頃、何かで読んだ記憶があります。

 幼児が身近な大人との会話から言葉を覚えていく際に、身近な大人が訛っていると、その幼児も訛った言葉を話すようになる。これは当然といえば当然でしょう。
 しかし、自閉症児の場合は模倣や会話が苦手なため、身近な大人たちの訛りが身につかず、繰り返し見て(聞いて)いるテレビやビデオの方から標準語で言葉を覚えていく。こんな解説だったと思います。

 この説が本当だとすると、自閉症児の場合、「男(女)らしさ」の表れ方も健常児と異なる可能性があります。
 自閉症児、特に知的障害が伴う自閉症児は、「男(女)らしさ」の「刷り込み」がききにくい分だけ、あまり「男(女)っぽく」ならないーという仮説も成り立つのではないでしょうか。

 あらためて考えてみると、わが息子は、いわゆる「男らしさ」が薄いような気もします。

 車や電車、バスに乗って出掛けるのは好きですが、乗り物そのものに執着している様子はみられません。駅や空港に連れて行っても、電車や飛行機よりも自動ドアばかり見ています。
 とはいえ、「人形」と比べれば、乗り物の方により興味を持っていそうではあります。

 しかし、そもそも彼が「人間に似せて作っているけど本物の人間よりだいぶ小さいおもちゃ」である人形を、どういうモノと認識しているのか分かりません。
 あと、人形を使った「ごっこ遊び」には、「見立てる」「なりきる」「演技する」「パターンをつかんで反応する」などなど、息子のような自閉症児にとって理解が難しい「高度な」要素が多くあります。

 ですので、息子の場合は、これをもって「男の子だから人形より乗り物に興味を持つ」とは言い切れないのです。

 われわれ夫婦は、ジェンダーを意識して息子を「男らしく」育てているつもりは全くありませんし、「男らしく」なってほしいとも特に願っていません。
 ジェンダー的にいう「男らしさ」がどういうものかもよく分かりませんし、あまり興味がありません。

 息子はいま、食事後の食器の片付けや食器洗い、コーヒーメーカーを使ってコーヒを作る、洗濯物を干す、浴槽を洗うーといったお手伝いを率先してやってくれます。

 写真は数日前の様子です。息子は現在、8歳2カ月です。

 健常児の親御さんですと、この写真をご覧になって「このぐらいのことは4歳ぐらいでできるはずでしょう」と思われるかもしれませんし、わが息子と同じ重度自閉症のお子さんを育てている親御さんですと「この子は障害が軽いからできるんでしょう」と思われるかもしれません。

 でも、息子は4歳の頃にこんなことは全くできませんでしたし、できるようになる日がくることを想像することもできませんでした。

 「つみきの会」に入ってABA(応用行動分析)による家庭療育を始めたばかりの頃の息子の様子をご存知のセラピストさん、新潟支部の保護者さんであれば、「あの子がこんなことができるようになったんだ」と感慨深く受け止めていただけると思います。
 それだけ「困った子」でしたので。

 家庭療育を続けていれば、ゆっくりでも「できること」は増えていくのです。
 「つみきの会」新潟支部始まって以来の問題児(自称)ですらそうなのですから、この文章をお読みになっている方のお子さんは、もっと早くできるようになるはずです。

 ジェンダーの話に戻ります。息子がこうした家事を積極的にするようになったのは、親が「男の子だからさせているorさせていない」ではなく、妻やぼくが家事をしているのを繰り返し見るうち、自分からやるようになったのです。

 もっとも、「男の子だから家の手伝い(家事)はしないでいい」という教育をしている家庭は、今や少ないかもしれません。「パパが家事をしないから、男であるぼくも家事をしないでいいんだ」と思っている男の子は一定数いそうですが。

 息子には、ぼくや妻が死んだ後にも一人で生きていける力を身につけてもらわなきゃいけませんので、身の回りの家事ができるようになることは非常に重要です。

 息子は模倣が苦手なのですが、親の見よう見まねでこういった家事をするのは楽しいようです。素晴らしいことです。
 ただ、ファンヒーターの灯油タンクにポンプで灯油を入れるのだけは、危ないのでさせていません。彼的にはこれが一番やってみたいようですが、まだ早いですね。

赤いTシャツを着て赤いストライダーに乗る息子
写真=赤いTシャツを着て赤いストライダーに乗る息子。そういえば、就学前は特に「赤ずくめ」でした=2018年6月、新潟県村上市

 あと、これはジェンダー的な「男らしさ」とは直接関係ないかもしれませんが、「息子には赤色が似合う」というぼくの見立てから、乳幼児の頃から赤いものばかりを身につけさせていました。

 幼稚園に持っていくカバン、靴、お弁当箱、ストライダーはみんな赤が基調でしたし、赤い服も多くありました。
 唯一の例外としては、赤のランドセルは似合わない感じがしたので、黒っぽい標準的なものを選びました。

 ただ、息子を見ていても、それによって赤色が特に好きになったり執着するようになったりした感じはありませんし、「赤は女の子っぽいからイヤだ」と主張することもありませんでした。
 冒頭に挙げた5ちゃんねるのスレッドのタイトルでいう「大人の刷り込み」のようなものは、彼には通用しないようです。

 「男らしさ」に当てはまるのかどうか分かりませんが、唯一それっぽい教育方針としては、「人に優しく、女性には特に優しくする」というものがあります。

 現時点では「そういう人に育ってほしい」と願っているだけで、うまく教えることができていませんし、実践もできていませんが、長期的な目標の一つです。

 今のところ、競争心も自己主張もそれほど強いタイプではないようにみえますので、「優しい人」になる素質があるのかもしれないと期待はしています。
 ただ、現在の彼は、同級生をはじめとする「子どもたち」には関心が薄い半面、大人(特に女性)の反応をすごく気にする傾向があります。

 ですので、当面は「身近な大人の女性に紳士的に接する」ということを覚えさせたいと考えております。
 大人の女性に紳士的に振る舞おうとしている自閉症の少年を見掛けた際には、温かい目で見守っていただければ幸いです。

 考えてみると、ジェンダー的「男らしさ」という点で、そもそもぼく自身があまり「男らしく」ありません。体育会(軍隊)系のマインドはゼロというかマイナスですし、「男が集団になって気が大きくなった時の甘えを含んだノリ」が昔からすごく気持ち悪くて嫌いで、「男の集団」からは意識的に距離を置いて生きてきました。息子に「男らしさ」が薄いのは自閉症うんぬんではなく、単に父親に似ただけなのかもしれません。ただ、それはそれとしても、「自閉症とジェンダーの関係」って興味深い研究テーマになると思うんです。
 この文章を書くにあたって「自閉症 方言」でGoogle検索していたら、「自閉症は津軽弁を話さない 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く」(松本敏治著、福村出版)という面白そうな本を見つけ、早速ネット注文しました。読むのが楽しみです。

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