「本気を出す」ということを息子にどうやって教えていったらいいか考えてみたけれど、「別に教えなくてもいいかもしれない」と思い直した
どうアプローチしたら息子は「本気を出す」ようになるのか、真剣に考えた時期がありました。
まず、就学前に何度か受けたDQ判定の検査の時。
妻が家で教えている時には簡単にクリアする課題なのに、外ではできなくて低い評価になってしまったことが多かったです。
小学校に入ってからは、運動会のリレーやマラソン大会。
ちゃんと走れば早いのに、わざとキョロキョロしたりニヤニヤ笑ったりしていつも最下位でした。
マラソンは個人競技なのでいいのですが、リレーでこれをやられると参ります。
真剣(そう)に走って遅いなら健常児の皆さんも応援してくれるでしょうが、いかにもふざけた感じに見えます。
心象が良くありませんし、「頑張っている障害者」という一般的なイメージ(?)とも合致しません。自分を見ているようでもあります。
そんな息子を見ていて切なくなった時、このポスターが頭に浮かびました。
インパクトのある絵柄ですので、記憶に残っている方もおられるかもしれません。
Yahoo!ニュースの記事部分からも引用します(太字部分は筆者)。
ポスターに描かれているのは、青野春秋さんの人気漫画「俺はまだ本気出してないだけ」の主人公・大黒シズオ。大黒シズオは、会社を突然辞めて漫画家を目指す、40代のフリーターだ。このポスターは昨年(2015年)12月24日から、全国160カ所ある「地域若者サポートステーション」(通称:サポステ)と、全国全ての市町村で掲示されている。
Yahoo!ニュース「厚労省が『キミはまだ本気出してないだけ』をニート支援に選んだ理由とは」より
息子は「オレは本気出していないだけ」と斜に構えているわけではないでしょうが、「本気出したところで、自分にとってプラスになることはない」とは考えていそうです。
「かけた労力に見合った利益(成果)は得られなそうだ」と。
3年ぐらい前、脳疾患で入院した時に同じような気持ちになりました。
この時は、手術の必要はなく薬を飲んで血圧をコントロールできればOKーという感じだったのですが、念のために数日間安静にし、毎日リハビリを受けていました。
台の上をまっすぐ歩いたり箸で豆をつまんだりと、認知症予防でお年寄りがやるような軽作業を繰り返し、なんともやるせない気持ちになっていました。
そして、一番「なんだかなぁ」と思ったのは、脳トレみたいなパズルでした。
難しい内容ではなかったのですが、やたらと量が多い上に、制限時間内になるべく多く解くように求められていて、最初は真剣に取り組んでいたのですが、途中から一気にやる気が失せてしまいました。
手を抜いて少しゆっくりやったところで「脳に深刻なダメージが残っている」という実態と異なる評価にはならないだろうし、「頑張っていいところを見せて褒めてもらおう」というモチベーションも低いし、まあいいか、と。
この時、息子の気持ちが分かったような気がしました。
スポーツマンであれば本番である試合でベストのパフォーマンスができるよう心身を調整していくでしょうし、入試や資格試験、就職試験などもしかりで、「かけてきた労力に見合った利益(成果)」を得るために本番でベストを尽くして競争に勝ち抜こうとするものです。
しかし、息子がDQ判定の心理テストでいくら頑張って点数が少し上がろうとも、彼にとって「目に見えた『いいこと』」は用意されていません。
かといって、「わざとサボっている」という意識もないでしょうが。
息子は、できないことも多いですが、自己肯定感は極めて高いです。
「自分はできる」「自分は愛されている」という絶対的な自信があるようです。
いまだに母音優先で聞き取りにくい発語にもかかわらず、自信満々にしゃべります。
発語の矯正よりも「しゃべって自分の気持ちを表す楽しさ」を優先させようという療育方針で進めているからです。
ABA(応用行動分析)の療育は基本的に「ほめて伸ばす」手法ですので、それが彼に合っていたのでしょう。
そういう考え方で療育を続けてきましたし、そもそも息子は障害が重いので「第三者と比べて勝った・負けた、優れている・劣っている」などというのは、親としては「どうでもいい」と思っています。
最初から勝負に加わっていないんだから放っておいてくれ、と。
ただ、そんな息子にも、教えたわけでもないのに、勝つと喜び、負けると悔しがるものが一つだけあります。
カルタ遊びです。
療育の一環で始めたものですが、本人はかなり真剣で、調子がいいと妻やぼく、健常児の同級生に勝つこともあります。
息子はきっと、本気出したいことが見つかれば本気を出すのでしょう。
リレーやマラソン大会がたまたま、それに当てはまっていないだけで。
となると、親や周囲が何でもかんでも「本気出せ!」と激励するのは逆効果なのかもしれない。
自己肯定感を守りつつ、何に本気を出すかは自分で選んでもらえばいいのではないか。
ニートの話ではありません。重度自閉症・中度知的障害があるわが息子の話です。
こんなふうに書いていたら、ニートの方々にとても親近感が湧いてきました。
親や厚生労働省がいろんなことを言ってきているようだけど、君たちもマイペースでいいんじゃないの、と。
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