「『地域との共生』ができればわが子を施設に入れる必要はなかった」と叫んだ当事者家族〜相模原障害者殺傷事件021 

事件から2カ月後の2016年9月、神奈川県の黒岩祐治知事が「やまゆり園」の建て替えを表明しました。

 建て替えは家族会の要望を受けたものでしたが、これに対し、全国の障害者団体やグループホームを運営する人々から「歴史に逆行しているんじゃないか」「地域で暮らすことが幸せなんだから、大きな建物を建てずグループホームにすべきだ」などと強い反発が起こったことから、県は建て替えの方針を白紙に戻し、再検討することになりました。(1*)

 当時の「家族会vs障害者団体」の対立(対話)については事件の関連本にも多く取り上げられていて、とても示唆に富んでいます。

「重度知的障害者は地域では暮らせない。やっとたどりついた場所がやまゆり園だった」
『(障害者が)うるさいから、あそこの家に早く行ってくれ』と警察に通報する住民もいた。嫌がらせの電話を受けることもあった」
「地域に密着した生活ができないから息子を園に入れた。重度の知的障害がある子の親からは、地域の『地』の字も出てこないと思う」
そう締めくくると、参加していた家族からひときわ大きな拍手が寄せられた。

「季刊 福祉労働167『入所施設の現在ー相模原障害者施設殺傷事件を受けて』」(現代書館)P27~28より引用

 事件の取材をした神奈川新聞記者の成田洋樹さんが書いたものです(引用部分の太字は筆者)。

 発言しているのは入所者の母親で、事件から半年余りがたった17年2月、神奈川県が開いた園の再建を巡る説明会でのワンシーンとのことです。

 「大規模施設という存在そのものが悪」という主張は理解できますし、「重度障害者だって人里離れた大規模施設に隔離されるよりも地域社会の中で暮らす方が幸せ」という訴えも、「そりゃそうだろう」とは思います。

 ですが、ぼくは「当事者の親」ですので、どうしても、やまゆり園の当事者家族の方々の方に肩入れをしてしまいます。

 われわれ家族は幸運にも、隣人や地域に恵まれ、現時点では「地域で暮らす」ことができています。

 ただ、この先はどうなるのか分かりません。

 地域から排除され、苦しみ続けた当事者家族の気持ちはいかばかりか。

地域住民からの風当たりは強かった。「目障りだ」「早く施設に入れろ」ー。周囲から心ない言葉を浴びせられたことは数え切れない。
小学校からの帰り道。民家の軒下で見つけたダンゴムシやアリを持って帰ってくると「うちの敷地で何か盗んでいった」と文句を言われ、牛舎にいる牛に草をあげれば「変なものを食べさせた」と言いがかりをつけられた。

やまゆり園事件」(神奈川新聞取材班、幻冬社)P243より引用

 前回も引用させていただいた、被害者の父親でやまゆり園家族会前会長尾野剛志さんの証言です。

 被害に遭われた一矢さんはぼくより3歳年下ですので、尾野さんが語ったエピソードはたぶん、今から40年ぐらい前に起こったことだと思われます。

 それほど昔で、意識も低い時代だったとはいえ、「目障りだ」はないよなぁ。

 ネットの匿名性を悪用した誹謗中傷があふれる社会ではありますが、こういうことを対面で言い放つ人って今は少ないと思います。

 昨年、こんな記事を書きました。

 東京・港区の南青山で児童相談所を建設する計画に対して反対運動をした住民の話です。

 その地域に差別・偏見が強くて非寛容でさらに声が大きい人が何人もいて、そういう人たちに気を遣って頭を下げ続けて窮屈な暮らしを強いられるぐらいなら、「こっちから出て行ってやるわ!」と言いたくもなります。

 「家族会vs障害者団体」の対立に話を戻します。

 家族会が望んだ「やまゆり園建て替え」に異議を唱えた障害者団体や当事者支援の専門家の方々の主張は、理屈としてはよく分かります。

 「人里離れた大規模施設への隔離から開かれた地域へ」というスローガンは素晴らしいと思いますし、「施設という存在そのものが必要悪である」という批判や指摘も、障害者福祉の歴史に沿ったもので、「その通り」だと思います。

 ただ、これは自省も込めて申し上げるのですが、人は「正しいと思ったこと」を主張するとき、「正しくない」と思っている相手に対して、「こちらが正しいのだから少々言葉が荒くても攻撃的でも許されるだろう」という「甘え」が出ることがあるのではないでしょうか。

 自分が正義だと思い込んでいる人ほど他者に非寛容で冷酷で暴力的になる傾向は、確実にあると思います。

 なぜこんなことを書いたのかというと、この事件を扱う本を読んでいて、「地域で暮らそうと頑張る重度障害者とその家族、支援者」が取り上げられ、そうした挑戦が「いいこと・素晴らしいこと」というふうに手放しで持ち上げられているのが、ちょっと気になったからです。

 重度障害者が地域で暮らすことができる環境を整えることは素晴らしいと思いますし、挑戦されている関係者の方々は尊敬に値すると思います。

 でも、差別や偏見にさんざん苦しめられた末に「地域に密着した生活ができないから大規模施設に入れた」と叫ぶ当事者家族の方々に対して、「障害者本人の意向は確認したのか」「家族のエゴだ」「考え方が遅れている」などとは、ぼくは決して言えません。

(1*)「開けられたパンドラの箱〜やまゆり園障害者殺傷事件」(月刊「創」編集部編、創出版)P130を要約

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