「『知的障がい者・精神障がい者のグループホーム、福祉施設』は必要なものだけど、自分の家の裏には作ってほしくない」という考え方について

インクルーシブ教育について書いた前回の続きです。

 障害児(者)向けの学校や施設は人里離れた場所に立地している例が多いということは、障害児の親になる前から認識がありました。

 昔、原発の立地問題について調べていた時に知った「NIMBY(ニンビー)」という言葉を思い出しました。

 Wikiから引きます。

NIMBY(ニンビー)とは、英語: “Not IMBack Yard”(我が家の裏には御免)の略語で、「施設の必要性は認めるが、自らの居住地域には建てないでくれ」と主張する住民たちや、その態度を指す言葉(総論賛成・各論反対)。日本語では、これらの施設について「忌避施設」「迷惑施設」「嫌悪施設」などと呼称される。

Wikipedia「NIMBY」より

 この後段に「対象となる施設」という項目があり、その中で知的障がい者・精神障がい者のグループホーム、福祉施設」が、「精神科病院」「児童相談所」「ダルク」とともに挙げられています。

 当事者家族としては悲しさや腹立たしさがゼロではありませんが、「ふーん、やはりそういう位置付けなのね」「へぇ、原発と同じ扱いなんだぁ」などと感情を脇に置いて、話を進めていきます。

 NIMBYという言葉こそ使われていませんでしたが、東京・港区の南青山に計画されていた児童相談所の建設に対し一部住民が猛反発しているーという騒動が思い出されます。

 BUSINESS INSIDER(ビジネスインサイダー)にフリーライターの島沢優子さんが書いた記事「南青山の児童相談所建設に反対の声。各地で続く建設断念に子どもたちへの偏見」から引用します(太字は筆者)。

…港区による周辺住民への説明会では、一部の住民が猛反対の姿勢を見せ、怒号も飛び交ったという。
なんで青山の一等地にそんな施設をつくらなきゃならないんですか」
港区としての価値が下がるじゃないか」
そのような資産価値が落ちる不安を口にする人もいれば、施設の機能を誤解しているような意見もあったようだ。
ネギひとつ買うのにも紀ノ国屋に行く。DVで保護される人は生活に困窮されていると聞くのに、生活するのに大変なはず」
「100億もかけて、なんで法に触れるような少年の施設をここにつくらなきゃならないのか」

BUSINESS INSIDER「南青山の児童相談所建設に反対の声。各地で続く建設断念に子どもたちへの偏見」より

 頭に浮かぶの絵と声は、漫画の「ドラえもん」に出てくる「スネ夫のママ」です。あくまでイメージですが。

 こういう紋切り型な「都会の感じ悪い金持ち」ってホントに生息しているんだーということをぼくのような全国のイナカモンに知らしめた、ネット炎上やワイドショー向きなエンタメ性の高い騒動として記憶されている方も多いのではないでしょうか。

 この記事がアップされたのは2018年10月30日。その後、建設計画は順調に進み、ことし4月1日に「港区子ども家庭総合支援センター」という名称でオープンしたようです。よかったよかった。

 オープンを伝える東京新聞の記事「『一等地に似合わない』と反対された東京・南青山の児童相談所、4月開所へ ボランティアに応募多く」によると、「区にはこれまで約1600件の声が寄せられ、約8割が賛成、反対は約1割。19年の千葉県野田市の小学4年の女児死亡など、虐待事件が相次いだこともあり、その後は反対意見は減った」とのことです。

 先に引用したビジネスインサイダーの記事には、岐阜県山県市と東京都国分寺市で児童養護施設の移転・新設が地元住民の反対運動によって中止に追い込まれたーということも紹介されています。

 それによると、児童養護施設に集まるのは多くが虐待に遭った子どもたちなのだけど、「非行に走った子」と偏見の目を向けられ、反対運動を行う住民が「地域の子どもに影響を与える恐れがある」「いじめ、ねたみ、うらみ、つらみの経験 そんな環境を持つ(子どもが入所する)」などとビラに書いて配布したのだという。

 でも、これって、施設の入っているのがみんな「虐待に遭ったかわいそうな子」なら許してやるけど、「非行に走ったことがある子」は迷惑だから来るなーって言っているようなものですよね。

 いやしかし、こういう発想をする人たちって一体ナニサマなんでしょうねぇ。よっぽど遵法精神に溢れる立派な社会人たちなんでしょう。

 子どもたちの非行の背景には、発達障害や知的障害があったり、自分ではどうしようもない家庭環境があったりするのかもしれません。

 それらの背景がないとしたって、非行に走ったことがある子どもたちを一時預かって「やり直し」を支援する場所を「忌避施設」「迷惑施設」「嫌悪施設」(Wikiの表現をそのまま使いました)だとみなして、一部住民が「(他の場所ならいいけど)うちの家の裏には来るな!」と叫んでいるわけです。

 頑張って「やり直し」しようという気持ちが芽生えてきた子どもたちだって、こんな大人たちの存在を知ったら気持ちが折れてしまうかもしれません。

 「やり直し」したって社会は二度と自分を受け入れてくれないんだから、このままでいいや、と。

 南青山の児童相談所の場合は「19年の千葉県野田市の小学4年の女児死亡など虐待事件が相次いだこともあり、その後は反対意見は減った」とのことで、それはいいことなのですが、こういう重大事件によって「ふわふわした世論」が動くことにはリスクもあります。

 てんかんのある人が交通事故を起こしたというニュースや、注目を集めた事件の加害者に発達障害や知的障害があることが分かった時など、急に「ふわふわした世論」が直接関係がない障害当事者を攻撃してくることも繰り返されてきました。

 発達障害やうつ病などに対する理解が広まったり、LGBTの方々が発言しやすくなってきたりと、社会が少しずつ「進化」していることは感じるのですが、その反動からかネットの匿名性などに隠れての攻撃や誹謗中傷も目立っています。

 「子どもの声がうるさい」と小学校や保育園に苦情が寄せられたり、保育園の建設に住民が反対したり、「声を出さないで」と注意書きが張ってある公園があったり、ベビーカーで電車に乗る人を攻撃したりとーいろんなニュースも耳にします。

 「子どもに冷たい国」は必ず衰退し、衰退の末に滅びるはずです。

 それは分かっていて、児童相談所や児童養護施設の必要性も分かっているけれど、「わたしの家の裏には作るな!」って叫ぶ人が一定数いるということなのでしょう。

 インクルーシブ教育に話を戻します。「チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)」のサイトから再び引用します。

…発達障害をもつお子さんなど様々なニーズのある子どもに対応するために必要な教員と設備が整った『普通学級』に、地元のすべての子どもが通うのです。

CRN「所長ブログ『何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (5) 大いなる誤解』」より

 こんな「真のインクルーシブ」が実現できたら、どんなに素晴らしいことでしょう。

 ジョン・レノンの名曲「イマジン」の世界みたいです。

 ただ、実現したとしても、「地元のすべての子どもが通う」のはいいのですが、「地元のすべての子どもの保護者」の中に、「インクルーシブ教育のせいでわが子が迷惑を被っている」と考える人が一定割合で出てくることは容易に想像がつきます。

 そして、そう考える保護者たちの怒りの矛先は、社会実験を推進した官僚や有識者ではなく、目の前にいる障害当事者とその保護者に向かうはずです。

 もっとも、当事者家族の側としても、そういう保護者に対しては「いや、別に、こちらとしても、あなたみたいな人と関わりたくないんですよね」という気になることでしょう。不幸なことです。

 マイナスの想像ばかり膨らんでしまいましたが、理念を具現化する以前に、施設の立地というだけでもこれだけの問題をはらんでいるわけです。

 次回に続きます。

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