乗り鉄ウォーキングのすすめ

新潟駅に向かう電車に乗る息子。車窓から見えるのは阿賀野川
写真=新潟行きの電車に乗る息子。日曜の昼で乗客がほとんどおらず、この車両にはわれわれ家族の貸し切りでした。車窓から見えるのは阿賀野川=2020年5月、新潟市東区

息子が通う小学校が再開して約1ケ月、マスクやらソーシャルディスタンスやらと面倒で新しい要素が加わったものの、いちおう「日常」が戻ってきました。

 いや本当に学校ってありがたい。疲れ知らずで生命力の塊みたいな8歳男児と一緒に丸一日過ごすのには、相当な体力が要ります。

 学校と家庭で手分けをできれば心と体力に余裕ができるわけです。「ノーモア一斉休校」と祈るばかりです。

 コロナの蔓延とピークアウトを経て、政府は「新しい生活様式」なるものを提唱し始めました。

 われわれ家族においても、コロナに伴う小学校休校を経て、「新しい休日の過ごし方」が誕生するに至りました。乗り鉄ウォーキングです。

 われわれ家族が暮らす新潟県新発田市は人口10万人足らずの小さな街で、もともと「密」になる場所はありませんし、新型コロナウイルスの感染者もゼロです(6月24日現在)。
 隣接する4市町では、いずれも確認されています。不思議なものです。

 そんな環境でしたので、常にStay Homeする必要性は薄く、都市部にお住いの方々に比べればユルく過ごすことができました。

 とはいえ、これまで休日によく利用していた公共施設や日帰り温泉の大部分は臨時休業していました。
 県外への外出自粛要請が出ており、市町村をまたぐ移動も控えた方がいいという雰囲気もありました。

 「(密にならない)屋外+近場」でいかに楽しむかーという知恵が求められました。体力があり余る息子が体を動かせればなお良し、です。

 で、最初に思い付いたのが「ビールを飲みながら市内を散策する」ことで、このことは以前こちらに書きました。 

 その次に始めたのは「電車+ウォーキング」でした。

 ぼくが通勤で使うJRの駅構内に、「駅からハイキング中止のお知らせ」と題した告知文が張ってあったのを見たのがヒントになりました。

 JRがそういうイベントを企画・開催していたとは知りませんでしたが、「これ、個人レベルでやれば面白いんじゃね?」と思い至りました。

 こんなふうにバリエーションを広げていきました。

①次の駅まで電車で行き、歩いて帰る
②電車で出掛けた街を歩き回る
③電車内and駅構内で完結させる

 ①は、ローカルな話になってしまいますが、最寄のJR新発田駅から一つ先の西新発田、加治、中浦の各駅(いずれも無人駅です)で降り、缶ビール片手に散策しながら家に帰るーというものです。

 一駅分を歩くといっても、都市部と違って駅間の距離が広いので、かなりの運動になりました。
 特に新発田ー中浦は15キロぐらいの道のりでした。

 普段は車で通り過ぎるだけの場所をゆっくり歩くと、いろいろな発見があります。

 「こんなとこに立派な竹やぶがある」「ホームセンターで売ってた多肉植物が歩道脇で野良化している」「あの酒癖の悪いオッサンが経営する会社はここにあるのか」「この用水路、犯人が逃げるのに良さそう」などなど。

 しかし、田んぼのあぜ道や農道、住宅地を缶ビールを持った夫婦+重度自閉症児の3人で歩くのは、かなり目立つと思います。

 田舎に行けば行くほど自家用車での移動が日常生活のメインになりますので、歩いて長距離を移動するという発想に乏しいのです。しかも、観光地でもないですし。

 ②は「行った先で歩き回って、電車で帰ってくる」というもので、普通の「お出掛け」です。

歩き疲れてJR月岡駅ホームに座り込む息子と妻
写真=歩き疲れてJR月岡駅ホームに座り込む妻と息子。無人駅でトイレにトイレットペーパーがなく(ペーパーホルダーすらない)、ホームにベンチもありませんでした=2020年6月、新潟県新発田市

 これまでに行ったのは新潟、新津、月岡です。
 新潟と新津は普通列車で片道30分前後で、息子が飽きずに乗るのにちょうどいい距離でした。
 月岡は新発田駅の2駅先で同じ新発田市内です。

 ただ、月岡の場合、駅を降りても4キロ先の月岡温泉街まで何もありません。
 田んぼや小さな集落を貫く1本道を延々と歩き続けます。

 行きも帰りもすれ違う人はいませんでした。車に乗っている人たちは「あの家族はなぜあんなところを歩いているのだろう」と奇異の目で見ていたことでしょう。

 この日は、温泉街の中心部にある「新潟地酒 premium SAKE」で日本酒の飲み比べをするのが一番の目的でした。
 足湯近くのベンチに座って缶ビールを飲み、日本酒を飲み、温泉街を散策しました。素晴らしかったです。息子も楽しそうでした。

 ただ、月岡駅から徒歩で行き来するには、それなりの覚悟がいります。
 天気が良くて気温も高かったせいか、アルコールが入った妻とぼくはヘロヘロでしたし、無限に体力があるように見える息子も、最後には少し疲れた様子でした。

 帰りはタクシーを使うか、豊栄駅から出ている月岡温泉直通のバスを使えば、もっと気楽に飲み比べが楽しめると思います。

 ③は、電車に乗ることそのものが目的のお出掛けです。
 「何が楽しいの?」と突っ込まれそうですが、やってみると意外にいいんですよ、これが。

JR越後金丸駅で遊ぶ息子
写真=JR越後金丸駅のホームをうろうろする息子。ネットによると、新潟県最東端の駅なのだそうです=2020年6月、新潟県関川村

 せっかくの休日なのに梅雨入り直後で朝から空は真っ暗、天気予報は大雨。それでも「電車にどこか行きたいね〜」ということで、行き先を決めないまま駅に向かいました。

 で、スマホの乗り換えサイトでいろいろ計画を練った上で向かったのは、山形県境にある越後金丸駅。
 県をまたぐ移動に自粛要請がかかっていた時期でしたので、律儀に守りました。

 山の中の無人駅で、本当に何もありません。国道沿いで車の行き来はありますが、ネットによると、500メートルほど先に集落があるそうですが、駅から見る限り、人家は確認できません。

 ただ30分駅にいて帰っただけなのですが、かなり満足度が高い小旅行でした。

 とにかく車窓の景色が素晴らしかったです。葉の緑がくっきりしっとりしていて、自然豊かな風景を眺めるなら雨の日の方がいいのかもしれません。

 景色に関心がない上にずっと座りっぱなしで体力があり余っていた息子も、無人駅のホームを走り回ったりドアを開閉したりでうれしそうでした。

 コロナで休校中に始めた「乗り鉄ウォーキング」ですが、学校が再開してからもわが家の人気レジャーとして定着してきました。
 公共交通機関を使う経験を重ねることによって、息子もいずれは一人でお出掛けができるようになるかもしれません。

 そして何より、昼から酒が飲めるのが最高です。

 県境をまたぐ移動がOKになったので、これからはもう少し遠くに出掛けてみようかな。

 月岡に行ったのは日曜の昼でしたが、温泉街はこれまでに見たことがないくらい賑わっていました。コロナで落ち込んだ地元の観光業界を支援しようと新発田市が始めたキャンペーンの成果だと思われます。よかったよかった。

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