「速く走る」をどう教えるか
自閉症の特性なのだと思うのですが、息子はとても手先が不器用です。
その代わりなのかどうか分かりませんが、身体能力は比較的高く、体も極めて頑丈です。
ハイハイのスピードがものすごく早く、1歳になってすぐに階段の上り下りに挑戦しましたし、ことしの夏は炎天下で15キロぐらい歩いても平気な顔をしていました。
そして、本当は走るのも速いんです。
なのに、保育園や小学校の運動会で「ちゃんと走っている」のを見たことがありません。
観戦している親の方に顔を向けてニヤニヤしながらダラダラ走ったり、スキップしてみたり。こういうのは幼い健常児のお子さんにもあると思います。
それでも、健常児は成長するにつれて「他の子との競争に勝とう」「1位になるとほめられる」という意識が芽生え、本気で走るようになるのでしょうが、わが息子には、いつまで経ってもそういう「意識の変化」はみられません。
ぼくは、息子が「運動会でちゃんと走らない」ことを何も気にしていませんでした。
負けず嫌いで「他人に勝つことに喜びを見出す」という思考は、裏を返すと「他人と比べて負けていることを悲しむ」ことでもあります。
一流のアスリートは、そういう経験を繰り返しながら成長していくのかもしれません。勉強がものすごくできる子もしかり。
彼が勝ち負けに執着するのは、自分が得意なカルタ取りの時だけです。
ただでさえ健常児と比べて「できないこと」の多い息子が、他人との勝ち負けに執着したところで、心がすり減って自己肯定感が限りなくゼロになっていくだけで、何らいいことはないーとぼくは思っています。
「は? 徒競走でビリ? それがどうした。それよりも、走っている時のオレの決めポーズを見てくれたかい?」とまあ、こんな感じで十分です。
今週末、小学校の運動会があり、授業でそれに向けた練習が行われているようです。
先日、妻が学校に息子を迎えに行った時、ある先生からこんなふうに声を掛けられたそうです。
●●(息子の名前)さんが、本当は足が速いことは知っていますよ
これには妻も大喜びで、晩酌の際にうれしそうに話してくれました。
そして、妻と話すうちに、息子がなぜちゃんと走らないのかという理由を自力で発見しました。
息子のことを分かってくれる人がいるのはうれしいね
しかし彼は運動会で本気になって走ることはあるんだろうか。これじゃ「明日から本気出す」と言い続けているニートみたいだね。別にそれでも問題ないけど
「速く走ろう」という気持ちにならないんだろうね
他のお友達と競争して勝とうという発想がないのかも。まあ、勝たなくてもいいよ
…。いや、たぶん違う。「速い」って概念をまだ教えていないから、「速く走る」ことができないんだわ
「勝ち負けにこだわる」「競争心の有無」ということではなく、単に「『速い』をまだ教えていなかった」からだったのです。
ABA(応用行動分析)を使った家庭療育で、妻は息子にいろんなことを教えてきました。
「明るい・暗い」「暑い・寒い」「熱い・冷たい」「大きい・小さい」などを息子が現在それなりに理解できているのは、意識的にしっかりと教えたからです。
教えていなければ、8歳9カ月になった今でも、これらの概念を分からず、言葉にもできなかったはずです。
そういう障害なのです。
ここ数カ月、息子は鉄道に乗るのがマイブームなので、特急が普通列車を追い越す場面など、いくらでも教える機会がありました。
しかし、「速い・遅い」という概念を教えなきゃいけないという発想がそもそも抜け落ちていました。
まあ、「明るい・暗い」などに比べれば生活にそれほど必要不可欠ではない、イコール「教える優先順位が高くない」ともいえます。
学校の運動会まであと数日。せっかくの機会ですので、先週ぐらいから教え始めました。
意外に役立っているのはプラレールです。
プラレールは2、3歳の頃にハマっていたのですが、ここ数年は放ったらかしでした。
プラレールを使ったことがある方はご存知だと思いますが、プラレールの列車は新品の電池を入れた直後はスピードが速く、使っているうちにだんだん速度が落ちてきます。
買ったばかりの電池ともうすぐ寿命が終わりそうな電池をそれぞれ入れた列車を並走させれば、「速い・遅い」が可視化されるわけです。
妻が思いついたナイスアイデアで、これにより息子は「速い・遅い」の概念は理解できたようです。
次は実践編です。
家の前の道路(広い一方通行路です)にチョークを引いてスタートラインを設定し、妻とぼくは少し離れたところに立って、「10数えるまでにこっちに走ってきて」と言って走らせました。
何度か繰り返すうちに「8数えるまで…」などと少し速く走るように促していきます。
このやり方も効果があるように見えます。
この練習の際、スタート時に妻が100円ショップで買った笛を吹いていたら、ご近所にお住いのおばあちゃんたちが何人か家から出てきて、ニコニコしながらわれわれ3人の様子を眺めていました。
お騒がせしてすみません。でも、「頑張ってね〜」などと声を掛けられ、妻もぼくも温かい気持ちになりました。
さて、本番で速く走ることはできるのか。
「本気で走ると少し苦しいけど、いろんな人が褒めてくれてうれしい」ということをあと数日で教えられるかどうかがカギといえます。
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