馬の賢さと美しさ、馬に関わる人々の優しさに感動〜粟島ホースセラピー1泊2日・後編

前回の記事は泡姫ちゃんネタで終わってしまいましたが、ここからは、本題である「障がいのある子どもたちのための『ホース(馬)セラピー体験事業』in粟島」(JRA日本中央競馬会特別振興資金助成事業)の参加レポートです。

 結論から申し上げますと、重度自閉症・中度知的障害がある息子は乗馬することができました。しかも、自ら「もう1回馬に乗りたい!」と意思表示をして、計2回も乗ることができました。

 親としては、馬には乗れなくとも馬に親を持ってくれればOK、という気持ちで臨んでいましたので、結果として想像をはるかに上回る大成功でした。

 出発前から初日のスケジュール、日程2日目の実技が始まってから息子が馬に乗るところに至るまでが、ABA(応用行動分析)で言うところの「スモールステップ」で滑らかに進んでいったことが「勝因」だと思います。

 時系列で振り返ってみます。

(1)出発前の準備

 妻がホースセラピーの日程を箇条書きにした紙を事前に渡し、「土曜日に船で粟島に行くんだよ」「粟島で馬に乗るんだよ」と繰り返し話し掛けていました。

 就学前であれば、粟島フェリーや粟島港、現地の牧場など立ち寄り先の写真をネットなどで集め、カードにして見せていましたが、今は言葉で説明すれば理解してくれますので、だいぶ楽です。

 馬に興味を持つようにと、妻が家庭療育で「スーホの白い馬」を読み聞かせていました。

 ぼくも、妻の読み聞かせで何十年かぶりにこの物語のストーリーに触れると、馬頭琴の美しくも物悲しい音色よりも、殿様の残虐さが一番印象に残ります。

 読み聞かせるたびに妻は、「この殿様はヒドいヤツだ」「ママは殿様を許さん!」と興奮気味に息子に語り掛けています。

殿様、ひどい! ママは殿様を許さん!

名作なのは分かるんだけど、この物語を読んだ子どもが馬に親しみを持つようになるのかどうかは微妙だねー

 この文章を書くに当たり、Wikipediaで調べたところ「スーホ」とはモンゴル語で「斧」を意味するのだと初めて知りました。

 「スーホ」の語源については、英語で馬を意味する「ホース」をひっくり返したもので、「ザギンでチャンネーとシースー」みたいな、昔のジャズミュージシャンやマスコミの人間が使う業界用語の類だとずっと勘違いしていました。

 大昔、誰かにほらを吹き込まれたのでしょう。得意げに誰かにしゃべらないでよかった。

(2)出発〜実技前日の座学

 行きの高速船の中では息子が行程表を眺め、予定を確認していました。

 家族で旅行など遠出をする時は必ず行程表を作成して息子に渡します。

 日常のルーティンと違うことをする際には、こうして「先の見通し」を示すことで落ち着いて行動してくれます。例えば、「船に乗るのは飽きてきたけど、もう20分経てば船を降りてバスに乗れるからもう少しおとなしくしてしていよう」といった感じで。

 ホースセラピーはまず、初日昼の講習会から始まりました。講師は東京農業大農学部准教授の川嶋舟(しゅう)先生でした。川嶋先生は獣医師の資格を持ち、秋篠宮紀子さまの弟さんとのことです。

 「人が大好きだから獣医師になった」というお話に人柄がにじんでいました。

 ホースセラピーをはじめとするアニマルセラピーを体験するのは初めでですが、縁あってミュージックセラピーは6年以上続けていて、非常に効果を実感しているところでした。

 ですので、障害者をはじめとする「社会で生きることが困難のある人」が、セラピーによって「生きるきっかけづくり」ができ、「自己肯定感の獲得」「生活習慣の改善」などの効果が期待できるーといった理念的な部分は存じておりました。

 興味があったのは、「馬の持つどういう特質がセラピーに適しているのか」という点でした。

 川嶋先生のお話では、馬は「用心深い」「変化に敏感」「臆病であるが好奇心が強い」「攻撃より逃げることを選ぶ」といった特性があり、他の動物に比べて馬が優れている点としては「親しみやすい」「乗ることができる」「一定の大きさ」「約束ごとを導入しやすい」ことなどを挙げておられました。

 なるほど。そう言われてみれば、牛のような攻撃性はなさそうですし、ヤギよりはずっと賢そうですし、犬やネコよりも「付かず離れず」のメリハリのついた関係性を築けそうです。乗れるってのも大きいですね。

 講習会の最後の方に「ご両親やスタッフの方も、馬に乗られて、共有体験をしてください」と呼び掛けておられました。子どもが受けたセラピーをより効果的なものにするためには、確かに「共有体験」は大事です。

 今の息子はこの講習を聞いてもほとんど理解できないはずです。

 それなのに30分も会場に居ることができました。「『自分が馬に乗る』というゴールに向けたスケジュールが始まった」と認識してもらうだけで十分でした。

(3)実技前日の牧場見学とBBQ

 夕方には、翌日の乗馬体験の会場となる「あわしま牧場」に行き、馬の見学とバーベキューがありました。

 これは「場所見知り」を減らすのに非常に有効でした。

 「知らない場所に行くとイヤがってかんしゃくを起こす」という類のものは卒業しましたが、その場所で気に入ったものを見つけるとずっとそこから離れず、目的が果たしにくいーということはあります。

 「あわしま牧場」で彼が最も心惹かれたのはやはり、入り口のドアでした。馬にはあまり興味がないようでした。

 ドアの脇に「無断で場内立入禁止! あわしま牧場 場長」と書いてある張り紙を示しながら、「勝手に開けちゃダメなんだよ。ドアは見るだけ!」と言い聞かせると、牧場入り口のドアをじーっと眺め、ドアの前から離れません。

 実技前日に会場を訪れ、お気に入りのドアを堪能することができたおかげで、本番ではそれほどドアを気にすることなく「馬に乗ってみよう」という気持ちになったのだと思います。

 こういう「ちょっとした工夫」って、息子に新しいことに挑戦させる上では非常に重要なんです。

 この旅程を作ってくださった社会福祉法人「のぞみの家福祉会」(新潟県新発田市)の支援スタッフの皆さんには感謝しかありません。

 BBQの肉を頬張り、チャーハンをかきこみ、ゆっくりと場所に慣れていきました。

(4)実技当日の進行

 前日の講習会もそうでしたが、実技会場には関西弁が飛び交い、新潟県外から来られたと思われる「大人たち」が結構いて不思議な感じでしたが、「しおかぜ留学」で粟島に滞在している小中学生の保護者の方々とのことでした。

 実技の運営に関わっていた「しおかぜ留学」の小中学生にとっては、久々に会う保護者の方々に見せる「晴れ舞台」だったのでしょう。みんなカッコ良かったですよ。

 ようやくこのホースセラピーの全容が分かりました。

 主催は「公益社団法人 全国乗馬倶楽部振興協会」で、共催は粟島浦村。実技の講師は福山ホースクラブ(広島県)高橋のり子代表

 そこに「のぞみの家福祉会」グループ(新潟県内の障害児と保護者[4家族=子ども6人、保護者5人]と支援スタッフ6人)と、「しおかぜ留学の保護者グループ」が参加しているーということのようです(間違っていたらご指摘ください)。

 乗馬体験は、講師の高橋先生と「しおかぜ留学」の小中学生、前日の講習会で講師を務められた川嶋先生の案内で進められました。

 馬に乗るのが、「両グループの保護者」→「のぞみの家グループの子どもたち」→「妻」→「息子」という順番で、スモールステップになっていたのが幸いしました。

 息子は当初、妻と並んで乗馬体験を眺めていましたが、近くにいた支援スタッフの女性2人にお任せする形でぼくと妻は息子のそばからそっと離れ、途中から一人で乗馬を眺めるようになりました。

 妻が馬に乗ったのを見計らって息子に近づくと、支援スタッフの一人が声を掛けてくださいました。

「馬に乗らない!」って、さっき言っていましたよ

ありがとうございます。それは、お二人に心を許して、構ってほしくて甘えてわざと言っているだけです

これから馬に乗るよ!

馬に乗るぅー!

 読み通りの展開でした。

 「自分から馬に乗りたいと思わせる」という最終段階へスムーズに移行することができたのは、このお二人のおかげです。ありがとうございました。

 乗馬する前の準備は「しおかぜ留学」の子どもたちがお世話してくださいました。

 これもありがたかったです。

 見ず知らずの大人がいきなり関わるよりも、年が近いお兄さんお姉さんに囲まれたことで、息子も親しみやすかったと思います。

 あと、われわれ家族も今回参加された皆さんも感じられたと思いますが、この会場にいた子どもたちの中でおそらく、わが息子が一番「障害が重い」ように見えました。

 そうした認識は運営サイドにもあったのでしょう、高橋先生と川嶋先生がかなり手厚く息子をサポートしてくださった感じでした。

 お二人とも障害児の扱いは慣れたもので、安心してお任せすることができました。

 馬を引いてくださった小中学生のお姉さんたちも、自然な感じで息子に話し掛けてくれていました。

 母音優先の独特な発語ですので、息子が何を言っていたのかは聞き取れなかったかもしれませんが。

 馬に乗った息子は怖がる様子もなく、妻やぼくの姿を見つけて手を振ったり、「ママー、ととー、写真撮ってー!」と叫んだりと絶好調でした。

 そして、馬から降りて妻とぼくに近づくと、

もう1回馬に乗るぅー!

 ご好意により、もう1回乗ることができました。想像をはるかに上回る成果でした。

この子、あたしたちがそばにいない時の方が「いい子」なのかもしれない

たぶんそうだわ

 乗馬体験を終えて小屋に戻った馬たちは、牧場のスタッフからブラッシングされ、水道のホースで水を飲み、なんとも優雅でした。

 馬の賢さと美しさ、馬に関わる人々の優しさに感動しました。

(5)撮影した映像を見て振り返る

 ホースセラピーの実技の様子をスマホで撮った動画を息子に観せることで、馬に乗った楽しい経験を思い出し、「また馬に乗ってみたい」と思うかもしれません。

 しかし、そもそも、どこでホースセラピーを受けることができるのだろうか。

 ホースセラピーの効用も魅力もよく分かりましたが、最大の弱点は「アクセスしにくい」ことでしょう。

 乗馬といえばお金持ち・上流階級の趣味というイメージが強いですし、川嶋先生は皇族とつながりのある方ですし、東京五輪・馬術のアメリカ代表はロックスターのブルース・スプリングスティンの長女ですし、これは別世界の特異な体験である、と。

 帰ってから「ものすごく高い会費を払わないでも馬に乗れる場所なんてあるの?」なんて話を妻としていたら、ありました。

 3カ月前、家から車で50分ぐらいのところにある大石ダム湖畔公園(新潟県関川村)に行って、馬に餌やりをしたことをすっかり忘れていました。

 乗馬体験もできるようですが、そもそも「息子が馬に乗りたいと思うわけがない」「馬に乗れるわけがない」と思い込んでいたため、粟島にいる間にこの記憶と結びつくことがありませんでした。

 事前準備には、「スーホの白い馬」を読み聞かせるのではなく、この公園に行ったときの写真や動画を見せればよかったんだ。

 しかし、今回のホースセラピーに参加しなければ、「乗馬に挑戦させよう」などと考えることは決してなかったことは間違いないです。

 そういう意味でも、息子だけでなく、妻とぼくも視野を広げることができ、貴重な体験ができました。


 粟島から戻る高速船の中、息子はおとなしく席に座っていました。「船の中を探検しよう」と促しても乗ってきません。

 どうも彼は、動いている船の中を歩くのが怖いようです。

 そういえば、以前はバスや電車でも動いている時は席を立つことができませんでした。船にはまだ慣れていないのでしょう。

怖がらずに馬に乗れたのに、船の中では歩けないのは不思議

ホントそうだねー

 岩船港から新発田市に戻るバスの車内で息子は、上機嫌でずっとしゃべり続け、到着する直前には「楽しかった!」と言っていました。

 重い障害がある息子にいろいろな経験をさせることで少しずつ視野が広がり、できることが増えていき、今や自転車を自由に操ることができるようになりました。

 加えて、馬に乗ることができるようにもなりました。奇跡を見るようでした。

 今回のホースセラピーを企画・運営をされた皆さま、ありがとうございました。

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