「ドアの開閉より楽しいことを見つけてほしい」と願い続けて早8年

息子はドアの開閉が何よりも好きです。
 大好物の納豆や鮭フレークよりも何よりも。

 診断名が付く前から自動ドアの開閉に重大な関心を示していて、その頃は「子どもってそういうものなのか」とそれほど気にもしていませんでした。

 でも、ちょっとでも知識がある人からは「この子は自閉症かも」と思われていたのでしょう。

 息子にはこれまでいろんなマイブームがあって、うまく消去できたり飽きたりして消えたものも多いのですが、ドアに対する執着と愛情は揺らぐことがありませんでした。

 昨冬は「空気の入れ替えしたい!」と、もっともらしいことを言いながら、ドアや窓の開け閉めを堂々と繰り返していました。

 彼は平気みたいでしたが、オトナは寒いっての。

 ショッピングモール、競馬場、水族館、空港、温泉旅館、無人駅、闘牛が暮らす牛舎…どこに連れて行こうとも、彼が一番関心を抱くのは「その場所にあるドア」でした。

 ドアさえあればいいのです。

 電車に乗るのが好きなのも、ドアがたくさんあるからなのでしょう。

 と、こんな感じですので、親としては、お金と時間と労力をかけて遠くの観光地に連れて行く張り合いがありません。

 今の息子は、ディズニーランドに行くより、近所のイオンモールの自動ドアを観察する方が精神的充足感が高いはずです。

 安上がりでラクでもありますが、親としては少しさみしく、かなり退屈でもあります。

 ABA(応用行動分析)による家庭療育を始めた当初は、ドアの開閉へのこだわりをかなり厳格に「消去」しようと試みて、それなりに成果をみせていました。

 しかし、5〜6歳の頃に、妻とぼくが「根負け」してしまった瞬間がありました。

 家族3人でどこかの公共施設に行った時、妻とぼくの目を盗んでこっそりとドアを開閉する息子の笑顔があまりにも輝いていたのです。

 彼は赤ちゃんの頃からよく笑う子で、診断名を付けた先生から「明るい自閉症児」との称号もいただいていますが、ちょっと普段とはレベルの違う笑顔でした。

 この笑顔をみて以来、ドアの開閉を問題行動として消去することはあきらめました。

「ドアとの共生」を模索する道を選びました。

 この頃は発語や言葉に関しての成長があまりみられなかったのですが、トイレトレーニングを始めとした身辺自立の方は順調に進んでいたこともあって、「他人に迷惑を掛けない程度ならいいか」という考えに傾いていったのだと思います。

 ただ、療育仲間が集まる場ですと、ドアを開閉させている息子をみて他のお子さんがうらやましがっているように見えるのが心苦しかったです。

 そのお子さんはご家庭で「ドアで遊んじゃダメ」としっかり療育されていて、「あの子は遊んでいるのに、なんでぼくはダメなの?」とモヤモヤしていたかもしれません。本当に申し訳ありませんでした。

JR鼠ケ関駅のドアを開閉する息子
写真=無人駅のドアを開閉して喜ぶ息子。このタイプの引き戸をなぜか息子は「赤ちゃん」と呼びます。多目的トイレの扉に似ているからだと思われます=2020年8月、山形県鶴岡市

 「節度を持ったドア開閉の解禁」をしてからは、息子のドアに対する好みもよく分かるようになりました、どうでもいいことですが。

 自動ドアがベストのようですが、自動でなくてもOKで、引き戸や回転扉もそれなりに楽しめるようです。
 西部劇に出てくるショットバーみたいな観音開きもいいし、駅の自動改札にもテンションが上がるようです。

 これまでで最高にテンションが上がっていたドアは、下校中に転んで骨折した際に通っていた整形外科医院のトイレでした。

新潟市中央区「西堀ローサ」の地下出入口の自動ドアを開ける息子
写真=新潟市が誇る地下商店街「西堀ローサ」の地上出入口に陣取る息子。「ドアボーイ」のようです=2020年10月、新潟市中央区

 さすがに写真を撮るのは憚られました。
 はっきり覚えていませんし、うまく言葉で説明できませんが、Eテレの番組「ピタゴラスイッチ」を思わせる凝ったカラクリで開閉します。

 新潟県新発田市の市役所近くにある医院ですので、ご興味があればぜひ。

 もう一つ、ローカルネタにはなりますが、新潟市中央区の繁華街・古町地区にある「西堀ローサ」の地上出入口の自動ドアも大好物です(写真参照)。

地下街としては本州日本海側では随一の規模といわれる。また、地下街でありながら鉄道駅などの大型公共交通施設には全く近接していない、全国的に珍しい形態の地下街である。

Wikipedia「西堀ローサ」より

 ここの何がいいって、「人の出入りが少ない」ことなんです。

 バブル期はかなりにぎわった歴史と伝統を誇る新潟自慢の「都会的」地下ショッピングモールなのですが、近年は集客面で苦戦されているようで、休日になっても人通りがあまりありません。

 それが逆に、息子にとっては「ゆっくりと自動ドアを堪能できる穴場」という位置付けになっているでしょう。
 しゃべってくれないので分かりませんが、多分そう思っています。

 また、ここ半年ぐらいは、ドアで遊んでいる自分が映っている動画を観て楽しむーという新たな楽しみ方を見つけました。

 上に掲載したような場面の動画を寝転がりながらiPad miniでえんえんと観続けます。

 よく分かりません。本物のドアが目の前になくても、自分の手で開閉できなくても一定程度の満足感が得られるんですね、きっと。

 なぜかここで思い出したのが、「学校に侵入して女子高生の上履きを盗み、コンビニのコピー機で上履きをコピーしているところを逮捕された男」でした。

 十数年前にネットで話題になったB級事件ですのでご存知ない方がほとんどだと思われますが、このニュースを知った時の「えっ、上履きのコピーを眺めて満足なのか?」という衝撃と似たような感覚だったのです。

 「えっ、自分が映った動画で満足なのか?」と。犯罪と比べるのは適切ではありませんが。

 これも妻とよく話しているのですが、宝くじが当たったら自宅に頑丈な自動ドアを付けようと決めています。

 高額当選だった場合は、自動ドアを1000個集めたテーマパークを作ります。

 新品は高そうですので、商業ビルの解体前に出てくる中古品で十分です。

 宝くじが当たるのが早いか、息子がドアに飽きるのが早いか。

 わが家は宝くじを買う習慣はありません。
 ドアの開閉より楽しいことを早く見つけてほしいものです。

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