世界自閉症啓発デーに合わせてNHKのローカル局がやってくれた特集から地元の自閉症アーティストの成長を知る

4月2日が世界自閉症啓発デーであることを、ことしもすっかり忘れていました。

 新型コロナウイルスのせいです。

 われわれ家族は、田舎に住んでいることと「自分たちのことで精一杯」ということもあって自閉症啓発デーの活動に関わったことはありません。

 それでも、この日が近づいてくると、いろんな団体のイベントの予定がSNSなどで上げられるのを観ては「頑張って啓発してくださる方々がいてありがたいなぁ」と毎年、心の中で感謝しておりました。

 ことしは、この日の昼にぼくのスマホにかかってきた電話で思い出すことができました。

翠恵ちゃんが今日の夕方のNHKの特集に出てしゃべるんだって。オレ、彼女がしゃべる声を一回も聞いたことがないのにさ。テレビカメラの前でしゃべるって、すごいよな

 電話は、前任地の新潟県小千谷市で仕事をしていた時にお世話になったKさんからでした。

 「翠恵ちゃん」というのは、長岡市在住の自閉症のイラストレーター・田中翠恵(たなか・みえ)さんのことです。

 Kさんは、小千谷市の隣の長岡市川口地域で障害児の就労体験をサポートする活動に長く取り組んでおられます。

 息子に診断名が付いてからは、仕事上のお付き合いに加え、個人的にもいろいろ気にかけてくださっています。

 ぼくは田中翠恵さんと面識はありませんが、かなり前に川口地域で開催された翠恵さんの個展に家族で行ったことがあります。

 名前で検索すると、作品を見ることができます。

 色鮮やかで優しいタッチのイラストで、新潟県内の障害者アートの世界では有名な方です。

 番組終了後、Kさんからまた電話をいただきました。

翠恵ちゃん、いつの間にすごく成長していたんだなぁ。本人もお母さんも頑張ったんだね。すごいわ。驚いた

 NHK新潟放送局の特集のタイトルは「漫画で自閉症に理解を」でした。

 番組のナレーションから引用します。

・現在26歳、自閉症の診断を受けたのは5歳の時
・コミュニケーションがうまく取れず、周囲から理解されず、唯一、絵を描いている時が楽しい時間だった
3年前にグループホームに入所してから、人前で話せるようになるまでに成長した

 翠恵さんが描き始めた漫画は、下書きのような感じでしたが、イラストとともに文字でこんな思いがつづってありました。

・好きな人とお話ができません
・部屋に閉じこもってお母さんを泣かせてしまいました
・本当の自分でいたいのに変なスイッチが入っちゃう
・「ありがとう」「ごめんなさい」が言えません。口ですぐに言えないのが辛いですね
・私もあだ名で呼ばれたいなー

 番組には翠恵さんのお母さまも登場されていて、イラストを描くことで娘さんの心も成長していると感じ、作品から娘さんの気持ちや関心が理解できるのではないかと思うようになったこと、漫画を通して本人の気持ちが直接理解できるようになり、「うれしい衝撃でした」と語っていました。

 翠恵さんの成長ぶりを知って喜ぶKさんの声を聞いて、ぼくもうれしくなりました。

 すごいです。息子がこんなふうに自らの内面について語ってくれたら、どんなに素晴らしいことか。

すごいねー。●●(息子の名前)もいずれ、こんなふうに自分の思いを文章や言葉で表現できるようになるのかなぁ。そもそも、こんなに高度なことを考えていないのかもしれないけど

翠恵さんはいま26歳で、●●よりだいぶ年上だからね。いずれ表現できるようになるよ

絵を描くのにも音楽にもあまり関心がなさそうだし…。何で自分を表現することができるのだろう?

体力があって家事は得意だけどね。そういう特性を生かすいい方法はないかなぁ…

 昔の資料を調べると、われわれ家族が翠恵さんの個展におじゃましたのは2014年3月。この年の8月には長岡市の近代美術館で障害者アートの企画展があって、翠恵さんの作品も観賞したのを覚えています。

 息子は当時2歳で、息子に診断名が付き、情報を求めてあちこち動き回り、「つみきの会」と出合ってABA(応用行動分析)による家庭療育を手探りで始めたばかりでした。

 NHKの特集と、Kさんが語る翠恵さんの話のおかげで、わが息子の成長の歩みをあらためて振り返ることができました。

 息子が生まれて初めて自分から「うれしかった」と言ってくれたのは、つい最近です。道のりは長そうです。

 絵の素養はなさそうですが、息子もいずれ、何らかの手段でもっと自分の気持ちを伝えてくれることでしょう、きっと。

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