自閉症・知的障害児の数が増えているのは「いいこと」なのかもしれない
ニュースを見ていると「〜が過去最多を更新」なんて表現がよく出てきます。
しかも、「増えない方がいいのに」と思うようなネガティブな感じのものが毎年毎年、最多を更新しています。
ネットから記事の見出しを拾ってみました(引用先をクリックすると記事に飛びます)。
児童虐待事件、過去最多の2133件 死亡も最多61人
朝日新聞デジタル(2021.3.11)より
子どもの虐待 19万件超 児童相談所の対応件数 最多を更新
NHK WEB(2020.11.18)より
いじめ認知、最多の61万件 「重大事態」も最多に
日本経済新聞(2020.10.22)より
児童虐待で警察が摘発した事件数(2020年)と児童相談所が対応した件数(2019年度)、全国の小中高校などで認知されたいじめの件数(2019年度)、これらがいずれも過去最多だったというニュースです。
この手の統計モノって、どう受け止めていいのか難しい部分があります。
児童虐待や学校でのいじめが右肩上がりに増えている、イコール「子どもが置かれている環境が年々悪くなっている」「古き良き日本社会が壊れてきてどんどん世知辛くなってきている」というわけでは必ずしもなくて、これら三つの統計はあくまで、警察と児童相談所、学校がそれぞれ認知した数なのです。
児童虐待は家庭という密室内で起こるケースが大部分ですので、警察や児童相談所に情報が寄せられて事件化や介入に至る件数が増えたというのは、それだけ「救われた子」が増えたことを意味しているかもしれません。
学校でもいじめも、先生など周囲の関係者が気付いて「いじめ」だと認識して対処したわけですので、いじめの認知件数が増えたというのは、学校現場がより荒廃してきたのでなく、いじめを見つけて対処した先生や学校が「いい仕事をした」件数が増えたーとも考えられます。
児童虐待もいじめも、ゼロに近づけていくことが望ましいのでしょうが、ただ統計的な数字だけ減らすことよりも、周囲の大人に気付かれずに苦しんでいる子どもを一人一人、地道に減らしていくことの方がはるかに重要だと思います。
特別支援学校や支援級に通う児童・生徒の数も過去最多を更新し続けています。
内閣府の「令和2年度版 障害者白書」から引用します。
日本の小中学校の児童・生徒数は2009年度の1074万人から19年度は973万人と減っているのに、支援校・支援級・通級指導を受ける児童・生徒は25万1000人から48万6000人に増えているのです。
小中学校の児童・生徒のうち、支援校・支援級・通級指導を受ける子どもは、2009年度は「43人に1人」だったのが、19年度には「20人に1人」になった計算です。
支援学校の教室不足、依然として深刻
日本教育新聞電子版(2020.2.5)より
支援校に通う児童・生徒数の増加に学校側の対応が間に合っていないという記事です。
教職員、心の病による休職過去最多 働き方改革が急務に
朝日新聞デジタル(2020.12.22)より
教職員に限らず、どの業種でも「心の病」が身近なものになってきていることは実感しています。
「心の病」だと自ら気付いて医療機関を受診して休職を選ぶ先生が増えていることは、「心の病」だという認識がないまま我慢し続けて心身がさらに疲弊し、自ら命を絶ったり教職を辞めたりすることに比べれば、「いいこと」だと言えるかもしれません。
もちろん、子どもが適切な教育を受けるためには、先生方の働く環境を改善していくことも大事、というか最も重要なことですし、保護者も先生方の労働環境に関心を持つべきだとは思います。
「心の病」もそうですが、「発達障害」という言葉も身近なものになってきています。
「大人の発達障害」なんて言葉は流行語っぽくもありますし、新たなビジネスの種にもなっているようです。
そこで気になったのが、「知的障害者も増えているのかどうか」です。
発達障害の子どもが増えているのは統計的にも分かりましたし、実感もあるのですが、わが息子のような知的障害を伴う自閉症児はどうなのか?
知的障害が(ほとんど)ない自閉症児の中には、「変わった子」「育てにくい子」という扱いで支援の手が差し伸べられていなかったケースが過去には多くあったでしょう。
しかし、わが息子のように知的障害がある「伝統的な」カナー型自閉症児の場合、障害が分かりやすく、見落とされる可能性も低いでしょうから、それほど増えてはいないのではーと思っていました。
どうもそうではないようです。再び「障害者白書」から引用します。
約20年の間に3倍以上(1995年・29万7000人→2016年・96万2000人)も増えていることになります。支援校の教室不足が起こるわけです。
知的障害は発達期にあらわれるものであり、発達期以降に新たに知的障害が生じるものではない…(略)。以前に比べ、知的障害に対する認知度が高くなり、療育手帳取得者の増加が要因の一つと考えられる
「内閣府『令和2年度版 障害者白書(全体版)』参考資料 障害者の状況」より
白書にあるように「知的障害に対する認知度が高く」なっているのであれば、それはいいことだと思います。
Twitterでフォローしている軽度知的障害の方が「発達障害だけでなく、知的障害の方にも注目してほしい」と訴えていたのを目にしたことがあります。
知的障害もこれだけ増えているのですから、発達障害並みに注目され、社会として支援する方策がもっと議論されてほしいという主張には深く同意します。
また白書の表現を引用しますが、「知的障害は発達期にあらわれるものであり、発達期以降に新たに知的障害が生じるものではない」のです。
とすれば、知的障害児(者)が増えているのは、軽度の知的障害があって「生きづらさ」を感じているのに見過ごされていた子どもがきちんと「発見」され、支援の手が届いている子どもの数が増えているからーともいえるかもしれません。
ベストセラーとなった「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著、新潮新書)にありましたが、日本の知的障害者の定義は現在、「おおよそIQが70未満で社会性に障害があること」とされているそうですが、かつてはIQ85未満だったとのことです。
そして宮口先生は、かつては知的障害者と定義されていたIQ70〜84(境界知能)の人々を、専門的な教育や福祉の手が届いていない「忘れられた人々」と表現し、この人々の「生きづらさ」に光を当て、認知能力を養うトレーニングの重要さを訴えています。
こういった視点は、「本格的な障害がある子ども」の保護者であるぼくには欠けていたものでした。
ただ、「障害者だ」と区別して(レッテルを貼って)終わりでは意味がありませんが、「忘れられた人々」が障害者と認定されることで支援の手が届くのであれば、それは歓迎すべきことではないかと思います。
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