「自閉症は津軽弁を話さない」という本がすごく面白かった

わが家では、息子の療育については、方針を決めるのも実践するのも妻が一手に担っていて、ぼくは「妻に言われたらサポートする」というスタンスです。

 母親と父親、両方とも「療育の専門家」になると、療育の方針を巡って夫婦ゲンカになる恐れもあるでしょうし、子どもが息抜きをしにくいかもしれないーという発想から、そんな形にしています。

 もちろん、ご夫婦で専門的に勉強を重ね、助け合いながら効果的な療育を施してるご家庭も多いでしょう。
 ただ、わが家ではそういう手法は向いていないと判断しました。

 何よりも優先すべきは夫婦仲であり、子どもの精神的安定であると考えたからです。

 そんなことから、ぼくが自覚的に「療育のど素人」というポジションにとどまっています。

 「自閉症は津軽弁を話さないー自閉スペクトラム症の 言葉の謎を読み解く」(松本敏治著、福村出版)という本を先ほど読み終えました。

 自閉症関連の本を読むのは、「つみきの会」に入会した直後にテキストの「つみきブック」を一回通読して以来で、6年ぶりです。
 「ブログのネタになるかな」と軽い気持ちで買った本でしたが、とても面白い上に、息子の障害を見つめ直すいい機会にもなりました。

 この本のタイトルを最初にみたとき、息子と暮らしてきた経験から、「そりゃそうだろうな」と思いました。

 ちゃんと促さなければ会話の際に相手の目を見ませんし、会話のやり取りからアクセントを含む言葉を学ぶのはすごく苦手だろうとは容易に想像がつきます。
 その代わり、気に入ったテレビやビデオは何度も繰り返して観ますので、それらで使われている標準語を覚える方が先だろうな、と。

 自閉症児の保護者としては、「方言を話すかどうか」は雑談のネタ程度なものですが、著者は大学の研究者ですので、さまざまな観点から科学的にアプローチをしていきます。

 具体的には、

①北東北限定なのか、全国的な傾向なのか
②健常者は方言と標準語を日常的にどう使い分けているのか
③療育者は障害児に標準語で話し掛けることが多いからではないか
④そもそも子どもはどのように言葉を習得していくのか

 こういったことを一つ一つ丁寧に検証するって大変な作業です。興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

 ぼくが一番驚き、「目からウロコ」だったのは、

TD(知的障害)の子はまあまあ方言を使うけれど、ASD(自閉スペクトラム症)の子はほとんど使わない

という指摘でした。

 この一文を読んで気付いたのですが、ぼくはこれまで、息子が「重度自閉症・中度知的障害」という診断であるがゆえ、「知的障害がある人」はみんな、「自閉症も併せ持っている」と思い込んでいました。

 少し考えればそんなわけはないと分かるはずなのですが、自分の子どもとしか接していないと、視野が狭くなってしまうのかもしれません。

 「知的障害のない自閉スペクトラム症」っぽいタイプは、大学時代に在籍した研究室にも会社の同僚にも知人にも思い当たる人が複数いるので、何ら珍しい感じはありません。
 ひょっとしたら、ぼくも周囲からそう思われているのかもしれません。

 しかし、「自閉スペクトラム症がない知的障害」というタイプの方と接した経験は、息子が診断を受けて地域の「障害児の保護者コミュニティー」に加わるまで、ほとんどありませんでした。

 本の一部を引用します。

TDは心的状態を理解した模倣が可能です。一方、話し手の心的状態の理解に遅れや困難を伴うASDでの模倣はこうはいきません。…テレビやビデオの登場人物の定番のセリフは、記憶と繰り返しに依存した学習が優位なASDの子どもにとっては、まさに、最適の刺激なのかもしれません。

「自閉症は津軽弁を話さないー自閉スペクトラム症の 言葉の謎を読み解く」(松本敏治著、福村出版) P150より

 方言がある地域社会では、多くの人は「場面」によって方言と標準語を使い分けて会話をしているけれど、場面を理解できなければ当然、使い分けはできないという指摘もありました。

 息子に当てはめてみても、方言を繰り返し聞かせれば、いずれ覚えて使えるようにはなるでしょうけど、使い分けは無理だと思います。
 「親しい人には方言、オフィシャルな会話では標準語」という切り替えは、彼にとっては極めて高度なスキルです。

 そういえば、ぼくが学校に息子を迎えに行くと、支援学級のクラスメートの男の子がいつも話し掛けてくれるのですが、彼はいつも感情がこもっている(ように聞こえる)話し方をします。

 同じ言葉を発していても、わが息子の時とは受ける印象が全く異なります。ちゃんと相手の目を見て話しますし。

 自閉傾向がないか、あっても極めて少ないのかもしれません。彼ならきっと、方言を習得できるのでしょう。ちょっとうらやましい。

 もちろん、「自閉スペクトラム症のみ」「知的障害のみ」の当事者や保護者の方も第三者には分からないご苦労が多いとは思います。
 「自閉スペクトラム症+知的障害」の子とはまた違ったアプローチ法があるのでしょう。

 息子が将来的にも新潟弁(というか新発田弁)を話さないことは理解できました。

 まあ方言は話せないでいいので、せめて、ほんの少しでも情感を込めた話し方ができるようになってほしいものです。療育によってこういうスキルが身につくのかどうかは分かりませんが。

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